第340話 響き渡る絶叫
「ふー……ロザリンはどうやら無事のようだ!」
「そうだよ!いくら”
「二人共、安心してる場合じゃないぞ……”神喰滅狼”が動いたということはだ……」
双魔の声にいったん安堵に染まっていた二人はすぐに表情を引き締めた。双魔の言わんとしたことは視線を真正面に戻せば瞭然だった。
ズズッ……ズズズッ……ズズズッ…………ズズズッ…………
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!
視覚の次に耳に巨大なものが引きずられるような音が届き、それに続くように空間全体が地鳴りを帯びた。
仮初の学園の前方でついに”
「…………」
”界極毒巨蛇”は舌をチロチロと揺らし、怪しく煌めく眼でこちらを見据えると太さだけで炎の巨人との身長ほどある巨躯をうねらせて前進をはじめた。
前進をはじめた”界極毒巨蛇”は少し進むとすぐに動きを止め首を起した。
「…………」
感情の読み取れない無機質な眼は何かを見下ろしている。そこには首を失った巨人たちの遺骸が転がっている。
「…………」
”界極毒巨蛇”はチロチロと数度舌を揺らすとおもむろに口を開いた。蛇特有の上顎と下顎を繋ぐ骨の働きで普通に開けてもバス一台ほどならいとも簡単に飲み込めてしまいそうな口が上下に限界まで開く。
開かれた口の中には鋭い牙が生えており、ぽたりと透明な雫が地面に落ちたかと思うと、シュウシュウと音を立てて爛れるように溶けはじめた。あれが雷神トールを滅ぼしたという毒液なのだろう。
”界極毒巨蛇”はもたげた鎌首を下に向けると転がっていた首無し巨人の遺骸に齧りついた。一口で巨人の胸の辺りまでを口に含めると首と腹の筋肉を使ってグイグイと飲み込んでいき、巨人は瞬く間に大蛇の腹へと消えていった。
「…………うっ……」
「……イサベル大丈夫か?これ使え」
「あ、ありがとう……うっ…………」
衝撃的な光景に気分を悪くしたのかイサベルの顔色が悪くなったので双魔はハンカチを差し出した。
「「…………」」
アッシュとフェルゼンも少し顔を青くしている。そんな中、鏡華だけが涼し気な顔をしているのはきっと慣れているからだろう。日ノ本の地獄には大蛇が多く住んでいる。アレくらいで動揺していたら閻魔王の跡継ぎなどやっていられない。
『こんな時に食事だなんて、私たち舐められてるのかしらねー?』
『同感だわ。それになんて品のない……』
不機嫌そうな声を出したカラドボルグにアイギスが同調する。気位の高い二人は余裕とも取れる”界極毒巨蛇”の行動をみて頭に血が昇りかけているようだった。
(…………これはチャンス、か)
そんな中、双魔は底冷えしてしまうほど異様に冷静だった。今の”界極毒巨蛇”には隙しかない。強大な力を行使するため一定時間疲労で動きが鈍くなるが”界極毒巨蛇”を倒すことは可能だ。
「……鏡華」
「”界極毒巨蛇”の弱点なら首。どうやってかは分からへんけど、斬られたのを繋げた切れ目みたいなのがあるわ。それと……」
双魔の意図を汲んだ鏡華は浄玻璃鏡の力で看破していた”界極毒巨蛇”の弱点を口にした。が、勿体ぶったように言葉を切った。
「それと?」
「……心臓に、
「……針?……そういうことか」
鏡華と双魔の間で”針”と言えば千子山縣の手によって創り出された死者を疑似的に蘇らせる御伽噺級遺物に違いない。
つまり、大きな力を使い短時間で倒す。または時間はかかるが小さな力で倒すか。対極の選択肢が取れる。双魔が選んだのは後者だった。
(後にはロズールも控えてるしな……温存できるなら温存しておきたい。というわけで早速……)
そうして、双魔が二体目の巨人を口に含んだ”界極毒巨蛇”に両手をかざした。その時だった。
「ッ!ソーマ!」
「ティルフィング?ッ!?」
ティルフィングが突然両手を大きく広げて双魔を庇うように前に立った。その直後、目の前に見覚えのある黒い靄が出現した。
そして、黒い靄の中からこちら側へとサテンの手袋に包まれたしなやかな手が伸び、ティルフィングの額に触れた。
「ぐっ……ぐっ……アアアアアアアアァァァァァァ!」
「ティルフィングっ!?チッ!」
触れられた途端、ティルフィングは頭を抱え苦悶の表情を浮かべて後ろに傾いた。聞いているものにさえ苦しみを共感させるほど悲痛な絶叫が戦場へと響き渡った。
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