第332話 ロザリンの信頼

 一方、場所は移って心臓を潰されて果てた巨人が横たわり、巨大な氷像と化し最早決して動くことのなくなった巨人が佇んでいる守り手側の最前線では双魔とロザリンが肩を寄せ合って何やら相談をしていた。


 「さて、奴らどんどんこちらに向かってきますけど……ロザリンさん、どうしますか?」

 「うん、とりあえずしばらく向かって来るのを潰して回ろうかな?…………”神喰滅狼フェンリル”はまだ動かないみたいだし」


 ロザリンは自分で相手をすると宣言した神狼を見つめるとそう言った。


 「妥当ですね」


 (ロザリンさんが散らしてくれるなら俺はあの巨人たちをどうにかした方がいいか…………)


 初見の巨人たちがどのように動くか判断がつかなかったので手を打ちあぐねていたがあの巨体で先ほどのような俊敏な動きをされては厄介だ。さっさと始末してしまった方がいい。


 「後輩君は巨人を先にやっつけちゃうといいと思うよ?あれ、結構邪魔になるし……後輩君、できるでしょ?」


 くるりとゲイボルグを回転させるとロザリンは”神喰滅狼”から双魔に視線を戻して首を傾げて見せる。


 ロザリンの自分お考えを見透かしたような提案と向けられた信頼に双魔は一瞬、呆気に取られてしまった。


 「……ロザリンさん、他心通とかも使えたりするんですか?」

 「……?使えないよ?思ったこと言っただけ」

 「そうですか……丁度、俺も巨人を先にどうにかしようと思っってました……イサベルに協力してもらいたいので一度戻ろうと思うんですけど……ロザリンさんはどうしますか?」

 「ううん、私はいいよ。ここでちょっと暴れようかな?よいしょっと”猛犬爪装クークリーオウ”」


 ロザリンはこちらへと砂煙を上げて接近してくる”黄昏の残滓”の先兵を見ると四肢に力を籠め解技を発動する。ゲイボルグから深碧の剣気が噴出し両手両足を包みしなやかな手足が装甲に包まれた。


 「接近戦になりそうだね。ゲイボルグ”斬断ゲイ・柳刃のラーミナ・ウィロウ”」


 さらに続けてもう一つ解技を発動させる。今度は手甲に包まれた手でしっかりと握られたゲイボルグの穂先に剣気が集約され薄いブレード状に変化した。刺突ではなく薙ぎ払いと斬撃で多くの敵を屠ろうという魂胆だろう。


 「分かりました。くれぐれも無理はしないように、何かあったらすぐに駆けつけますから……」

 「うん、後輩君も気をつけてね」


 双魔はロザリンに普段は見せない力強い頷きを見せると淡く蒼白い光に包まれて霧のように目の前から姿を消した。最前線にはロザリンとゲイボルグだけが残される。


 「……後輩君、空間魔術も使えるんだね。凄い」

 『何だ、お前知ってたのか?』


 ロザリンがポツリと呟くとゲイボルグが少し驚いた様子で声を掛けてきた。


 「ううん、おばばが前使ってたのを見たことあるだけ。似てたからそうかな?って。うんうん、後輩君、やっぱり凄いんだね。隠してるみたいだけど……」


 ”おばば”とはロザリンの育ての親兼師匠でもあるケルトの異界”影の国”の女王スカアハのことである。スカアハは永きを生き、戦士であり魔術師でもあるがその存在は神霊のようなものだ。


 人間では手の届かない”世界の法則”に触れる魔術も使って見せていた。それを一学生である双魔が使って見せたのだ。表情には出ないがロザリンはかなり驚いていた。


 しかし、それと同時にすんなりと納得も出来た。双魔は自分と同じ匂いがしていたから。


 神代の力を濃く残した血、人を超えた師の存在。あまり、他人に心惹かれることはない人生を送ってきた。その反動なのか興味を持った覇気に欠ける、けれど優しい少年に強く引き寄せられていることをロザリンは不思議に感じていた。


 「……終わったら、後輩君とご飯…………」

 『あん?何か言ったか?』

 「ううん、何でもない。それじゃやろっか」

 『おう!』


 ロザリンは自分の平坦な声に威勢よく応答したゲイボルグの声を合図に迫りくる異形の軍勢目掛けて自慢の俊足で切り込むのだった。


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