第327話 配置決定

 「あ!戻ってきた!双魔!突然いなくならないでよ!ビックリするじゃない……って、あれ?何か顔赤くない?」


 仮想の校舎の屋上に戻るとアッシュが頬を膨らませて怒っていた。のだが、目聡く双魔の顔が赤くなっていることに気づいた。


 「何でもないから気にするな。それより、配置は決まった。イサベルもアッシュと鏡華と一緒に基本はここだ。次に各々がどう動くか確認する。ほれ、さっさと集まってくれ」

 「双魔、何か隠してるでしょ?ねー、双魔!」

 「ええい!絡むな!そんなことしてる場合じゃないぞ!」


 珍しく捲し立てる双魔をますます怪しいと感じたのかアッシュは追及を試みるが双魔は一切取り合わずにロザリンたちに声を掛けてい集める。


 「……ほぅ……」


 そんな双魔の背中を見て思わず自分の口元を撫でてしまうイサベルの背後に近づく影があった。


 「……イサベルはん、双魔と接吻したん?どうやった?」

 「ええ……その……凄かったです…………って!?きょ!鏡華さん!?」

 「ほほほ!イサベルはんは双魔が絡むと隙だらけやね。うち、少―し心配やわぁ……ほほほほ……」


 振り返ると鏡華が楽しそうにころころと笑っていた。無意識のうちに双魔と口づけを交わしていたことを白状してしまい今度は先ほどとは一味違った恥ずかしさがこみ上げてくる。


 「…………恥ずかしいです」

 「ほほほほ……イサベルはんは可愛いねぇ……でも、双魔にして貰ったんやから、やる気は十分、違う?」

 「……違いません!」

 「せやろ、うちらは同じ場所みたいやし頑張ろうな」

 「ええ、頑張りましょう!」


 鏡華は少しからかってきただけでいつものようにそれ以上は踏み込んでこなかった。


 同じ人を、双魔を愛する者同士結束を確認して双魔たちの輪に加わった。


 「それで、役割分担は決まったけど、どう展開していくのかしら?」


 アイギスの問いに双魔は頷いて見せると口を開いた。


 「まず、防衛面から説明する。仮想学園の防衛は四重に防衛線を張って敵の侵入を防ぐ」

 「四重?」

 「ああ、まず一番外側に俺とティルフィングで氷柱の拒馬きょばを作る。上手くいけばこれで戦闘不能になる敵もいるだろうし、相手が密集して押し寄せてくるのも防げるはずだ」

 「キョバ?」

 「戦場で敵の、特に馬とかの侵攻を妨げる兵器、要は外側に大きな棘をつけた柵のこと」

 「あれって拒馬って言うんだ……」


 双魔の説明に首を傾げたアッシュにフェルゼンが補足をしてくれたので双魔は説明を続ける。


 「次に二重目だが、ここはフェルゼンとカラドボルグに頼みたい」

 「俺達か……守りに使うということはカラドボルグの剣気で相手の動きを鈍らせる、そういうことか?」


 フェルゼンの推測に双魔は頷いた。普段は察しが悪いフェルゼンも有事にはしっかりと様々な意図を汲み取る力があるようだ。


 「ああ、その通りだ。これも上手く行けばここで結構な数が脱落するはずだ」

 「退屈そうだけど……仕方ないわね……暴れたかったわ……」


 余程暴れたかったのかカラドボルグは完全におざなりモードだがフェルゼンが上手くやってくれるはずだ。


 「もし漏れた奴がいた場合の対処が三重目、イサベルのゴーレムだ。カラドボルグの重力網を潜り抜けるような奴はある程度力があると見て間違いないが…………今のイサベルなら問題ないはずだ」

 「ええ、対処して見せるわ」

 「ん、信じてるからな。ゴーレムの属性、形状、数、配置はイサベルに任せる。鏡華、補佐してやってくれ」

 「分かった。イサベルはん頑張ろうな」

 「はい!よろしくお願いします!」

 「さて、最後だが…………」

 「僕とアイの出番だね!守るのは本職だから、ドンっ!っと任せてくれていいよ!」

 「フフッ、まさに最後の砦ね……久々に腕が鳴るわ」


 言うまでもなく自分の役割を理解していたアッシュペアが威勢のいい声で双魔の視線に応えた。アッシュは胸を張り、アイギスも両腕を頭上に掲げて身体を伸ばしてやる気十分だ。


 「以上が作戦概要だ。今説明した各々の役目を十分に果たしてくれればどうにかなるはずだ。後は臨機応変に動いてくれ。必ず守り切るぞ!」


 双魔の合図に全員が力強く頷く。


 「それと、鏡華、イサベル、ロザリンさん、アッシュ、フェルゼンは左手を出してくれ」


 鏡華たちは特に何かを訊ねることもなく左手を双魔に差し出してくれた。


 「ん、少しくすぐったいかもしれないけど我慢してくれよ……」


 双魔は差し出されたそれぞれの左手に指でルーン文字を記していく。全員に書き終わると自分の手にも同じ文字を記し、ルーンを握り締めるように左手に魔力を集中させた。


 すると、鏡華たちの手に記されたルーン文字が光を放ち、掌に赤く刻まれた。


 「これで各員とも遠隔でも意思疎通できるはずだ」

 (後輩君、聞こえてる?)

 (双魔、これでええの?)

 (双魔君、聞こえるかしら?)

 (双魔―!僕の声聞こえる?)

 (双魔、聞こえているか?)


 意思疎通の魔術を発動させた瞬間、全員が一斉に双魔の脳内に語り掛けてきた。五人分の声が重なると情報量が多く、双魔は思わず目を瞑って顔をしかめた。


 「……一斉に俺に向かって語り掛けるな!」

 「だって……」

 「……ねぇ?」


 双魔に叱られた面々は何故か少し不満気だったが魔術が機能している確認は出来たのでまあ、いいだろう。


 「それじゃあ、各員、配置についてくれ!」


 双魔の合図に皆真剣な表情に変わり、それぞれの位置につき迎撃準備に取り掛かるのだった。


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