第207話 記憶に刻まれた光
『む……む……ここはどこだ?我はなにをしていたのだ?』
ティルフィングは気づくと知らない場所に立っていた。
如何やら花畑の真ん中ようで少し背の高い茎の先に白やピンク、紫の花が辺り一面に咲き誇っている。
『おー!きれいだな!』
何故だか心が途轍もなく痛かったような気もするがそんなことはどうでもいい。
思わず駆け出した。右を見ても左を見ても、どこまでも綺麗な花が咲いている。
そして、人影が見えた。長い銀色の髪を靡かせて、白い衣を纏った女の人が立っている。
『む?おーい!』
『…………』
ティルフィングが大声で呼び掛けると女性はゆっくりと振り向いた。
『む?』
どうしてか、その顔はぼやけていてよく見えないのだが、悪い感覚は一切感じない。優しくて、どこか懐かしい、そんな感覚でティルフィングの胸は一杯になった。
どうしてか、どうしても、傍まで行って抱きしめて貰いたいと思った。
『お主!何者だ?』
走りながら聞いてみるが女性は応えてくれない。そればかりか女性との距離は一向に縮まらない。
何かおかしいと思って首を傾げると、銀色の髪の女性はティルフィングが背中を向けている方角を指差した。
『……フィ……グ…………ティル……ン………………』
『む?』
ティルフィングは足を止めて振り向いた。何かが、誰かの声が風に乗って聞こえてくる。
『…………ング……ティ……フィ……グ…………ティルフィング!』
耳を澄ませると、それは聞き慣れた、いつでも聞いていたいと思える声だった。
『む!?ソーマか!?』
大好きなソーマが自分のことを呼んでいる。
すぐにそちらに駆けていきたいそう思ったのだが、銀色の髪の女性にも後ろ髪引かれる何かがある。
『む……むむむ……』
一瞬、どうすればいいのか分からずに難しい表情を浮かべたティルフィングの耳に、優しい声が聞こえてきた。
『私はいいわ。いい子だから、双魔の傍にいてあげなさい』
『お主は……』
『私は、ずっと貴女の傍にいるから大丈夫よ……さあ、早く行ってあげなさい』
『……分かった!』
ティルフィングは女性の言葉に背中を押されたように、踵を返すと風のように走り出した。
『ソーーーーーマー――――!!』
秋桜の花園にティルフィングの元気一杯の声が響き渡り、やがて銀髪を靡かせた小さな背中はどこかに消えていった。
『……いってらっしゃい……私の、双魔の可愛いティルフィング……』
白銀の乙女の呟きに、風が吹き、花弁が宙に舞う。
乙女の見上げる空は何処までも青かった。
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