第173話 灼熱の予兆
「…………ほぉ?」
世界の何処かに存在する悠久を黄昏が満たす部屋にて、緩やかなローブに身を包んだ男か女かも定かではない何者かは豪奢な金細工の椅子に深く腰を掛けながら何か興味深いものを見つけたのか声を上げた。
広い机の上、仮面の君の手元には林檎ほどの大きさの水晶が台座に置かれ、何かを映し出している。
「……ふむ……」
仮面の君は何かを思案するように片手を顎に当てると、もう片方の手で呼び鈴をつまんで緩やかに振った。
チリーン、チリーンと空気を揺らす波紋が琥珀色に染まった部屋に鳴り響く。
次の瞬間、音もなく蒼髪の少女が陽炎のように現れた。
机の前に歩を進めると白いドレスの両裾を摘まみ上げて優雅に、仮面の君へと首を垂れた。
「お呼びでしょうか?ご主人様」
「ああ、少し懐かしいものを見つけたんだ。事の次第によっては面白そうなことになりそうだ。少しお使いに行ってき欲しい」
「かしこまりました!それで、私はどちらに向かえばいいのでしょう?」
「うん、ロンドンに行って欲しい」
「ロンドン……ブリタニアですか?ということはまたお姉様にお会いできるかもしれませんわ!ウフフフフ!楽しみですわ!」
少女は俄かに舞うように飛び跳ねた。
仮面の君は口元に穏やかな笑みを浮かべてその様子を見守る。
「標的はお前の故郷の欠片だ……近づけばすぐに分かるはずだよ。持ち主がどんな者かは少し謎だから、困ったら我に相談するんだよ?いいね?」
「はい!お任せくださいまし!」
「うん、頼んだよ、レーヴァ」
「それでは、行ってまいりますわ!」
少女はふわりと微笑むと現れた時と同じく陽炎のようにその身を揺らめかせ、部屋から姿を消した。
「さて……どうなるかな…………フフフフ」
仮面の君は静かな笑い声を上げながらもう一度呼び鈴を鳴らした。
すると今度は何処からか二頭の毛並みの美しい白色の仔狼が姿を現した。
二頭は仮面の君に歩み寄ると甘えるように両膝に前足を掛けて身体を擦り付けてくる。
「うん……お前たちの母もそのうち帰ってくるさ……でも、今回は炎熱の残滓だ」
上質な絹のような仔狼の毛を撫でながら、仮面の奥の瞳は水晶に映る皮のトランクを見据えていた。
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