第147話 双魔の授業・魔力の体内循環編2
双魔は教室内を見回して付いて来れていない生徒がいないかを観察する。
すると、何人かが顔を顰めている。
(………………まあ、あとで資料も配るし大丈夫だろう……)
そんなことを考えているとある一点で目が止まる。そこに視線を送るのは今日で既に何度目だろうか。
双魔の目が止まったのは教室中央、明らかに不自然で落ち着きがないイサベルだ。
「………………」
「……っ!!?」
今も目が合ったかと思うとすぐに逸らされてしまった。
「…………?」
双魔の頭の上に浮かんだ疑問符に気づいたのかイサベルの隣に座っている梓織がアイコンタクトで兎に角講義を進めるように伝えてきている。
イサベルのことは気になるが、梓織の言う通り、今は講義に集中するのが筋だ。双魔は一旦おいていたチョークを再び摘まみ上げた。
「さて、魔力の体内循環について説明したが、体内を流れる魔術は二種類がある……と、いうわけで……えー、ジャネット=グレイスはいるか?」
名簿から適当に生徒の名前を選んで読み上げる。
「はい!」
すると、すぐに元気な返事が返ってきた。教室の中央より少し後ろの右の方で赤毛の女子生徒が立ち上がった。
「ん、じゃあ、二種類の魔力とはなんだ?」
「ええと、制御魔力と流動魔力です」
「ん、正解だ。座っていいぞ」
双魔にそう言われて赤毛の女子生徒はホッとした表情で席に座った。
「今、グレイスに答えてもらった通り、体内には制御魔力と流動魔力が存在する」
黒板に”制御”、”流動”と書くと白から青のチョークに持ち替えて、人体図の頭部、脳の辺りに線を書き加えてる。
「流動魔力はその名の通り、体内を循環する魔力のことだ。制御魔力もその名の通り体内の魔力を制御する魔力で両者は共に循環しているが、後者は少し特別だ」
双魔は縮めていた指し棒を伸ばして、青の線を書き込んだ部分を指した。
「制御魔術は心臓から魔力管を通って脳を通った魔力のことを言う。魔術師が魔力を行使する際にこの制御魔力が重要になる。さっき言い忘れたが、魔導に関わらない一般人は魔力管が細いと共に、この流動魔力を制御魔力に変換する機能が低い…………まあ、こういうことを言うと変に一般人を見下す魔術師の化石みたいな奴がチラホラと出てくるんだが…………諸君は決してそうはならないように」
双魔が呆れた顔を浮かべて言うと教室内のあちこちでクスクスと笑う声が上がる。
見たところこのクラスにはいないようだが、稀に勘違いしてしまう残念な人間がいるのだ。
特に何代も続く名門の出身の者にその傾向がある。そう言った輩と双魔は絶望的に合わない。思わず殴り掛かる、のは面倒なので適当に蔦で縛って、その辺に吊るしたくなるレベルだ。
そんなことを考えながら時計を確認すると、講義終了時刻まで三分を切っていて丁度いい時間だった。
「さて、丁度いい時間なので今日は此処までにする。今日の内容について纏めた資料を用意したから欲しい奴は取って帰ってくれ」
双魔は資料ファイルから紙束を取り出すとひらひらと振りながら教室の出口に一番近い机の上に置いた。
「課題は…………」
双魔の言葉に反応してアメリアを中心とした数人が祈るような仕草を取る。実のところ双魔は元々課題を出すつもりもなかったので思わず笑ってしまった。
「課題は特にない、質問がある奴は最初に言ったようにメッセージボックスに入れておいてくれ。後で答えた上で返却する」
「やったっス!伏見くん!大好きっス!」
アメリアが満面の笑みでガッツポーズを決めた。
一瞬、アメリアの言葉に教室の空気が凍りかけたのだが、当の本人たちは全く気付いていなかった。
丁度、終業の鐘が鳴る。
「それでは、今日の講義はここまでだ。お疲れさん」
こうして、双魔の年明けの初仕事は平和に終わった。
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