第48話 ベーオウルフの真装
「舐めるなよ!半端野郎……殺してやる………”
サリヴェンの全身を荒ぶる剣気が包み込む。やがて剣気は実体化、鎧と化した。
両手両足には鋭い鉤爪がギラリと光りを反射し、頭にはねじれた二本の角が生える。臀部でんぶからは太い尻尾が生えユラユラと不気味に動いている。その身全てが硬質な鱗に覆われている。
緑毒の全身装甲、屈強なサリヴェンがそのままドラゴンに進化したようだった。
「…………
予想外の展開に双魔の背を冷や汗が伝った。選挙でここまでやる者は皆無と言っていい。双魔が知っている限り先に勝ち抜けた四人の中ではロザリンとアッシュは
そもそも、真装は遺物の同意なしには発動できないはずだ。先日目にしたフルンティングの気弱で平和主義的な性格からして真装を発動できるとは思えない。
(ソーマ!)
「ッ!!グググ……グハ!?」
ティルフィングの警告で剣気を身体の前方に全力で放出した。しかし、サリヴェンの突進を止めることができず身体が吹っ飛んで舞台の端に身体が投げ出された。
「グ……」
(ソーマ!大丈夫か!?)
「…………ああ」
ティルフィングを杖替わりして何とか立ち上がる。
一瞬、考察に思考を持っていかれたのが良くなかった。全身に痛みが駆け抜ける。体力がごっそりと持っていかれて息が上がってしまう。
「はあ……はあ……」
「死ね」
サリヴェンは容赦なく攻撃を加えてきた。先程と同じようにフルンティングを大振りにしてくるがスピードが速くなりすぎて隙が無くなっている。
「オ、オオオオオオオオオ!!」
何とか斬撃を受け流そうとするが圧倒的なパワーを流しきれず腕から血が噴き出した。剣が地面に当たって生まれた衝撃波でまた身体が吹き飛ぶ。が、今度は何とか着地で来た。
「このままじゃジリ貧だな……」
満身創痍に鞭を打って走り出す。立ち止まっているより動いていた方が攻撃を正面から喰らうことを避けられるという判断だ。
(ソーマ、残された手は最早一つだ)
ティルフィングが先ほどまでの熱に浮かされた声ではなく冷静な声で語り掛けてくる。
「その一手ってのは何だ?」
(この間と同じようにする。我の全力の剣気を奴にぶつけてやれ!)
「ん……そういうことか……」
ティルフィングの言う通り、膨大な剣気を放って巨大な氷塊に封じ込めればいかに真装を発動していようと退場と判断されるに違いない。これはあくまで”選挙”であり殺し合いではないのだ。
双魔は足を止めるとティルフィングを正眼に構えて意識を集中させる。
渦を巻くように剣気が剣身に溜められていく。
双魔を仕留めようと突進する構えをとっていたサリヴェンはそれを見て構えを解いた。
「ギャハハハ!この前と同じ手なら勝てると思ってるのか!おもしれえ!それを受け切って完膚なく叩き潰してやる!」
足を踏みしめて双魔とティルフィングの一撃を受ける構えを取る。
闘技場内に凍気が満ち紅の氷粒が宙を舞う。そして舞台上に立つのはいつの間にか黒剣を持つ者と竜の鎧を身に纏う者の二人のみ。
一瞬の静寂の後、双魔は膨大な剣気を目の前の敵目掛けて放った。
「オオオオオオオオオオオオオオ!」
雄叫びと共に放たれた紅の奔流は以前と同じように空気中の水分を凍結させながらサリヴェンに襲い掛かった。
「オラァァァアアアアアアアアア!」
緑毒の小龍はこれも依然と同じく手にした魔剣から毒の濁流を繰り出してそれを正面から受け止める。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
二つの剣気が拮抗する。しかし、均衡は長く続かずに紅の奔流が毒を飲み込んだ。
「クソッタレェがあああああああああ!」
サリヴェンは真装を身に纏ったまま再び紅氷の巨塊に封じ込められた。
「はあ……はあ……はあ……」
双魔はその場で膝から崩れ落ちた。もう一歩も動ける気はしない。
舞台に漂う凍気が静寂を誘う。そして。
『……さ、最終第五ブロック!勝者は伏見双魔さんだあああああああああああ!』
アメリアの今日一番の大声が闘技場内に響き渡った。
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
大きな歓声が上がる。中には手を取り合って喜んでいる魔術科の女子生徒もいる。
そんな光景を見ながらイサベル=イブン=ガビロールは胸中に一抹の不安を覚えた。
「双魔君が勝ってうれしい筈なのに……どうしてかしら?」
眼下の舞台に立つ双魔は警戒を解くことなく身体を包む剣気や魔力は張り詰めた状態のままだった。
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