学校の噂と嘘と真実

優一を震撼させる脅威の噂話

 間もなく十月も中旬を迎えようとしている。

 あの自分でも何が起きたのかよくわからない学園祭からもう半月も経とうとしていることに、僕はどうにも実感が沸かなかった。学園祭が終わり、何か大きなイベントがあるわけでもない。いつもどおりの日常が戻ってきて、そして来週からは二学期の中間テストが控えている。もちろんテストが大丈夫なのかとか、そんな不安は多少なりともあるけど、それだって今更でいつもどおりのこと。

 そんな秋風が優しくなった午後を教室の窓に感じながら、僕はぼんやり外を眺めていた。


「お兄ちゃん! 早く班のメンバーを決めちゃいますよ!!」


 だがしかし、その穏やかな日常を甲高い妹の声がぶち壊しに来てくれたりして。……まぁ妹と言っても血の繋がりはないし、そもそも妹なのに同じクラスにいるとかどうなんだとか、それこそ今更の話ではあるが。

 今はホームルームの時間。いわゆる『班決め』という作業の最中で、若干教室は騒がしかったりする。


「と言っても、このメンバーでもう確定でいいんじゃないのか?」

「そんなこと言いますけど……お兄ちゃんは本当にそれでいいんですか!??」

「それでいいもなにも、既に班の最低人数である四人がちゃんと揃ってるじゃないか」

「そんなこと言ってるわけではありません!!!!!」


 糸佳のやつ、正直何をそんなにピリピリしてるんだと思わないこともない。ただ、糸佳は同時にもじもじもしていたりして、それ以上はっきりとしたことを言わない態度に僕も少し苛立ちを覚えていた。もっともそのはっきりとしたことを言われたところで、困ってしまうのは僕なわけだけど。


 糸佳の言うところの『班のメンバー』というのは、一ヶ月後に迫った修学旅行を一緒に回る班のことだ。修学旅行は三泊四日で、場所は京都。その時間の大半を班行動で行うことになっていて、時間もゆったりしているせいか、班で宇治や奈良などへ向かうケースもあるらしい。最低四人のグループになっている必要があり、しかも厄介なことに必ず男女二人ずついることなどという面倒な制限もあったりする。その制限というのはいったい誰得なのだろうと思わないことないが、学校の先生から言い伝えられた制限であるが故、僕らはそれに従うしかないのだ。

 あ、ちなみに修学旅行が三年生ではなく二年生のイベントなのは、三年生にもなると受験があるからということらしい。それ言われるとさらに気が重くなるわけだけど。


 で、今ここに集まった僕の班のメンバーは、男女四人。男子の方は、僕と親友の崎山透。そして女子は糸佳と……うん、その友人だ。


「てゆか大山。お前、霧ヶ峰さんと同じ班でなくていいのかよ?」

「は!? なんでだよ!??」


 が、若干面倒くさかったその質問を、糸佳よりも先に崎山の方が口に出してみたりして。


「そうですお兄ちゃん!! 美歌ちゃんを誘わないなんてお兄ちゃんらしくありません!」

「糸佳。ついさっきまでそれ言うの躊躇してたくせに……じゃなくて、これ以上話がややこしくなるような言い方は止めてもらえないかな?」


 糸佳は口を尖らせ、顔を真っ赤にして、河豚のような顔を僕に見せてくる。


「だって優一くん、霧ヶ峰さんのこと好きなんじゃないの?」

「は!?? どうしてそうなってるんだ……???」


 糸佳を代弁するかのように、もう一人の班のメンバー(確定)である白根千里がそんなことを言ってくる。白根は糸佳とは小学生の頃からの友人で、そのせいもあって当然僕も昔から知り合いだったりする。ちなみにその性格はと言うと……


「だってそんなの、クラス中の噂よね?」

「ああ。俺も多分その噂を聞いたことがあるぞ」


 白根の性格はもっぱらの噂好きなんだ。人の気も知らずに、崎山も白根の話に同調する。


「だからどんな噂だって言うんだよ……?」


 だがそんな白根の性格より、もっと恐ろしい噂が僕を襲い掛かってきていたりして……。


「学園祭で優一くんが霧ヶ峰さんにプロポーズした挙句、あろうことか後夜祭のジンクスにちなんでファーストキスまで迫って、あっけなく振られたって話?」


 ……うん。その噂は今日初めて聞く話の内容ではないけど、いつ聞いても妙な話だ。尾ひれがつきまくってるどころか、実際のところ、真実とは一ミリも噛み合っていない!!

 当然のことながら、僕は頭をかくしかなかった。

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