真奈海と楽器屋デート
アンコール、真奈海とのデート開演!
「ねぇ早く~!! ユーイチ、こっちこっち!!」
「ちょっと待てって。どこまで連れて行く気なんだよ~!?」
東京都内某所。チロルハイムから徒歩五分の場所にある都内と違って、れっきとした二十三区内。繁華街と言ってよい。九月の週末、僕と真奈海はそんな場所を歩いていた。もっとも歩いていたと言っても、この様子は僕が真奈海に振り回されてるといった方が正解かもしれない。そんなことはいつものことじゃないかと思われるだろうが、特にそれについて否定する気は一ミリもない。
時刻は間もなく夕方を迎えようとしているところ。九月の少しだけ涼しくなった風が、僕の顔を叩いてくる。まだ暑さは感じるけど、それほどでもなくなった。もうすぐ秋を迎えようとしているのだ。
真奈海と僕はつい先ほどまで、都内のライブハウスにいた。十三時に始まった『BLUE WINGS』のライブは活況を帯び、特にこれといったトラブルもなく無事に終わった。
……いや、トラブルが全くなかったわけではない。『BLUE WINGS』で新メンバーである
瑠海と未来――
新生『BLUE WINGS』の船出は、本当の意味で順風満帆とはいかないようだ。
「ちょっとユーイチ? さっきからなにぼおっとしてるのよ? 早く行くよ?」
「わ、わかったから。そんな大声出すなって」
で、今はそんなライブの終了後。例によって真奈海とデート……ということになっている。
今日は夜から同じライブハウスで『White Magicians』のライブがあるため、茜と糸佳はライブハウスに居残り、その準備を進めている。美歌はライブ後はオフのはずだったが、『勉強のため』と決め込んでライブハウスに残り、『White Magicians』のライブを見届けることにしたようだ。
そうすると残されたのは真奈海と僕。二人だけ。当然僕は慌てて逃げ帰ろうとしたが、案の定真奈海に捕まってしまう。
僕の腕はがっちり掴まれ、どうすることもできないままライブハウスを出た。その際、糸佳の顔が鬼の形相に見えた気もしたけど、そんなの僕は知ったこっちゃない。そもそも糸佳の視線の先は、僕ではなく真奈海に向いていたように見えたわけだけど、そんな糸佳の様子に気づきながらも、真奈海は軽くスルーしていた。
まったく、なんだというのか……。
「てか真奈海。どこまで連れていく気だ……?」
「あ、うん。ここだよ。ユーイチが遅いから、やっと着いた……」
「それも僕のせいだっていうのかよ?」
真奈海はにっとした笑みを僕に返すと、それ以上は何も言ってこなかった。
次に真奈海の視線の先に現れたのは、ややおしゃれで大人しい感じの面構えを見せた建物があった。特にこれといった派手な装飾はなく、それでも入店する人を選ぶような、建物からはそんなセレブ感を感じてしまう。ただ窓から少しだけ中を覗くと、その店が何の店であるかは一目でわかった。
「楽器屋…………?」
店内には、いかにも高そうなバイオリンが並んでいるのがわかる。
「そう、楽器屋。この前糸佳ちゃんに教えてもらったんだ~」
「糸佳に……ねぇ~……」
てかその糸佳がつい先ほどまで僕らを睨みつけていたんじゃなかったのか??
「ほら、ユーイチ。とっとと入るよ!!」
「あ、ああ」
特に抵抗する理由もないので、僕は真奈海に従って店内へと入っていく。真奈海の顔は楽しそうだ。何がそんなに楽しそうなのか、僕にはよくわからなかったけど……。
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