アイドルとしての女優春日瑠海
「ねぇルミ~? さっきから気になってたんだけど、前回のライブの曲タイトル間違え、そんなに気になってたの~?」
「え? なんのこと???」
ここまで特にトラブルが起きることもなく、二曲目『Stairs』が歌い終わると、MCは長めのアドリブパートへと入った。今日は解散ライブということもあり、いつもよりアドリブパートが多めではあるんだけど、アドリブパートに入った瞬間、胡桃さんの矛先に瑠海が選ばれるというのも、どこか新鮮な印象を受けた。いつもだったら小悪魔系の瑠海の方がツッコミ役であるはずなのに、今日はその逆。まるで日頃の仕返しをしているかにも思えたんだ。
「そんなとぼけたってムダよ。前回のライブの後、私たちに『気にする必要ないじゃないですか~』とか調子ぶっこきながら、結局ルミが一番気にしてたってことじゃんよ!!」
「いやあのだから~……ほら。きっと、そういうことですよ!」
「「きっとどういうことだよ!!?」」
千尋さんの痛々しいマジトークをなんとかごまかそうとする瑠海。だが今日の二人は、完全に瑠海の逃げ道を塞ぐ作戦のようだ。
千尋さんは観客にも伝わるように、その話の流れを説明し始めた。それは、『BLUE WINGS』リーダーとしての務めか、あるいはこの解散への引き金を引いてしまったことへの責任か、もしくはその両方だったのかもしれない。前回のライブの時、一体何が起きたのか、千尋さんは丁寧に話し始めたんだ。
その時はまだ三人の間で解散の話がなされていなかったこと。
ところが勘のいい瑠海はそれを事前に察知していて深く動揺していたこと。
そんな瑠海に対して千尋さんと胡桃さんがフォローしきれなかったこと。
だけど瑠海は、その一連の流れを悔やむ千尋さんと胡桃さんを庇おうとしたこと。
誰よりも仲間想いの瑠海に、これまで自分たちが何もできなかったことを、千尋さんと胡桃さんは二人で観客に説明したんだ。
「ちょ、ちょっと、やめてくださいよ~!!」
こうなるとタジタジの瑠海。顔は少しだけ紅く染まっているのがわかった。
「ほんと。春日瑠海は、アイドルになっても名女優だもんね~」
「それでいて私たち『BLUE WINGS』の座長。それはこれからもきっと、ずっと変わらないのよ」
胡桃さんと千尋さんがこう話をまとめようとする。瑠海はというと、どう次に進めていいのかわからなくなっているようで、出てくる言葉を完全に失いかけていた。
「だけどね。そんな私たち三人の『BLUE WINGS』は今日でおしまい」
「まずはあたしから抜けてくね~。次の曲はチヒロとルミの二人だけで『Egotistically』。あたしとチヒロのわがままを、ルミに届けたいと思います! 二人とも、準備はいいかな~?」
そう言うと、まずは胡桃さんが舞台の上から去っていった。
舞台に残った千尋さんと瑠海は次の曲のスタンバイをすると、糸佳がそれに合わせて『Egotistically』のイントロを流し始めた。二人ともダンスの息はぴったり。
だけど瑠海の顔だけはいつもよりほんの少しだけ、違うように思えたんだ。
まだまだ解散ライブは中盤だというのに……。
真奈海のやつ、あんな状態で最後まで本当に歌えるんだろうか?
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