新住民の告白
「ユーイチ? それ、ちょっと調子乗りすぎじゃないかな?」
「な……!??」
管理人さんの声も空しく聞こえるほど、真奈海さんは半分逆切れ状態だった。
誰が……それは別に管理人さんが悪いというわけでもないけれど、管理人さんの言葉の数々は、真奈海さんのプライドにとって許しがたいものだったのかもしれない。
「わたしが……なんだってのよ! ユーイチはわたしがか弱い女の子だって言いたいの?」
「ちょ、ちょっと……真奈美??」
「ふざけないでよ! そんな風に思われるの、迷惑以外の何物でもないから!!」
「…………」
真奈海さんの声が胸にじんと突き刺さる。こんなの冗談じゃないって、管理人さんを一気に突き放した。真奈美さんのむき出しな感情が、いつもの冷静さを完全に失わせている。真奈海さんらしくもあるけど、真奈海さんらしくもない、そんな態度だ。
だけどそれは、本当の意味での真奈海さんの強さの表れでもあったんだ。茜さんとはやはり違う。そんな心の中に溜め込んだ叫びを、身体全体で表していた。
だって真奈海さんは、絶対に涙を見せようとはしないんだ――
「……ま、そんな憐みの目で見られるなんて、わたしも落ちたものよね」
「…………」
「あ~あ。こんなこと言っても、負け犬の遠吠えなのにね」
「真奈海……」
「ほんと、嫌になっちゃう……」
でもそれは真奈海さん本人にも、ただの強がりだってことがわかっていた。だって、真奈海さんの本性は、根っからの女優、春日瑠海であるから。いつも堂々とした演技で、誰にも甘えることのない。屈託のない様で日本全国のファンを魅了する、そんな本格派女優なんだから。
チロルハイムの住民だって、みんな春日瑠海の大ファンだ。管理人さんだって、糸佳ちゃんだって、茜さんだって、もちろんあたしだってそう。誰もがその演技に一度は励まされたし、勇気づけられた。なぜならそれが、女優春日瑠海の魅力だから。人の心に直接訴えかけてきて、気が付くとあたしたちはその魔力に吸い込まれてしまう。
でも……。もしそうだとしたら、ここにいる春日真奈海という少女は――
「だったら……。先輩、こうしませんか?」
いつの間にか冷静さを取り戻していた茜さんが、こう切り返してきた。
するときゅっとその細い両腕で、素早く管理人さんの右腕を抱きしめる。
「私、管理人さんのことが好きです!」
…………。
「…………」
「…………はい?」
意表を突く茜さんの唐突の告白に、誰もが言葉を失いかけたけど、一番最初に正気を取り戻して声を出したのは管理人さんだった。まぁあたしや真奈海さんと同様、何が起きたのか理解できないまま、ぽかんとした顔を浮かべたままではあるのだけど。
「だから、管理人さんは私と付き合ってください!」
「お、おい……ちょっと待て!」
気が付くと、茜さんの胸の谷間に管理人さんの右腕がすっぽり挟まっている。それはそれであたしは冷静に見ていられなかったりとか……。
「だって、見た感じ管理人さんは、こんな美少女に囲まれながらも誰とも付き合っていないみたいですし、それなら私が相手でも何も問題ないはずですよね?」
「何も問題あるから!! いや、そういう問題じゃなくてだな!!」
というか、どうしてこういう話になったんだっけ……?
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