第40話 決断

「今の所問題になっているのはレメイと教団。それと旗持さんって感じかな」


 うん。そんな感じだな。この辺りの人たちを何とか出来れば落ち着けると思う。


「ねぇ、凛兄。教団とか旗持さんとかって私は知らないんだけど」


 そうか。千景はレメイと会っただけで他の人とは会ってないのか。

 千景を戦わせるつもりはないけど用心してもらうためにも教団と旗持さんの事は伝えておく。


「そんな人たちまでいるんだ。レメイって人だって相当ヤバそうだったけど」


 いや、レメイはちょっと別格って感じかな。危険度だけで言うと一番ヤバイかもしれない。


「じゃあ、その人たちを見かけたら逃げれば良いって事?」


 基本的に千景にはそうしてもらいたい。なんだかんだ言って一人しかいない妹だ。


「紅凛って意外と妹思いなのね。もっと妹には厳しいと思ってた」


 普段だったらそうだけど、流石に死ぬかもしれないって所では厳しくはしていられないからな。

 だが、ここで僕は考えなければならない。こうやって関係者がどんどん巻き込まれて行く状況で魔女をどうするのかを。


「魔女をどうするって? もしかして消しちゃうって事?」


 正直言うとそれも視野に入れている。魔女は今、この世界に居てはいけないんじゃないかと。


「それって紅凛のフォルテュナも、ちーちゃんのメルヴィナも、私のエヴァレットもって事?」


 神前が鋭い視線を僕に向けてくるが、僕は怯む事なく頷いた。

 正直言って僕も迷っていた所だったんだ。でも、妹まで巻き込まれてしまった事で、やっぱり魔女はいてはいけないんだと言う思いが大きくなってきたのだ。


「でも、私たちの魔女は一切悪い事をしていないのよ。悪い事をする魔女だけを消していけばいいんじゃないの?」


 その考えは間違っていないと思う。僕も最初はフォルテュナたちだけ残して他の魔女だけ消せば良いんじゃないかと思っていたんだ。


「それで良いじゃない。私たちの魔女を消す必要はないわよ」


 でも駄目なんだ。僕たちが魔女を持っている事は遅かれ早かれ必ず人の耳に入る。

 そうなると魔女が欲しいと思う人が僕たちを襲ってきて争奪戦が始まってしまうのだ。

 その襲ってくる人を魔女を使って撃退すれば良いと考えれるかもしれないけど、それではレメイがやっている事と変わらないんじゃないかと思う。


「全然違うわよ。だって奪いに来るんでしょ? 奪いに来る人が悪いんだもの。私たちはそれを払いのけるだけじゃない」


 だけど、魔女を持っている限りそれは続くんだ。何人退けようとも僕たちが持っている限りずっと。


「でも……、でも、エヴァレットと離ればなれになるのや嫌だよ」


 僕だってフォルテュナと別れたい訳じゃない。だけど、魔女は今の世界には居てはいけない存在だ。どこかで区切りを付けないといけないのだ。


「凛兄。ちょっと落ち着こうよ。礼華お姉ちゃんだっていきなりそんな事言われても『はい、そうですか』とはいかないだろうし、私もまだ賛同していないわよ」


 ふぅぅぅぅ。


 千景の言葉に僕は大きく息を吐く。どうやら僕も知らない間に熱くなってしまっていたようだ。

 熱くなっている体と頭を冷やすためにアイスコーヒーを口に含むと少し冷えた気がして落ち着けたように感じる。


「少しは落ち着いた? ほんと凛兄は熱くなると止まらないんだから」


 母さんみたいな事言うな。性格は本当に母さん似だな。


「フフフッ。本当に良い兄妹ね。少し妬けちゃうわ。でも、紅凛の考えは変わらないんでしょ?」


 良く分かっていらっしゃる。僕はこれからレメイたちを止めるのと同時に魔女を持っている人から魔女を削除していくつもりだ。


「分かったわ。私も協力してあげる」


「えっ? 礼華お姉ちゃん良いの? 折角仲良くなったんだよ?」


「エヴァレットと別れるのは辛いけど、紅凛の言っている事も分かるもの。ただし、私たちの魔女を削除するのは最後よ。それが協力する条件」


 それは大丈夫だ。僕もレメイとか他の魔女の事が片付かないと削除するつもりはないから。

 神前から協力の約束を得られた事で、ここで残っているのはあと一人だ。


「本当に削除しなくちゃいけないの?」


 千景が僕とスマホを交互に見ながら聞いてくるが、そんな目をしても僕の意見は変わらない。


「分かったわよ。全部終われば削除すれば良いんでしょ。凛兄の馬鹿!」


 どうやら千景も分かってくれたようだ。

 全員、魔女を削除したいなんて思っていない。だけど、魔女がこの世界に居ちゃいけないってのも分かっているんだろう。

 こんな事を勝手に決めてフォルテュナたちが何も言ってこないのが少し怖い。


「あっ、私? 私なら平気よ。この世界に固執している訳じゃないし、削除って言っても死ぬわけじゃないからね」


 意外とあっさりしていた。もっと別れるのを悲しんでくれると思ったんだけど、フォルテュナの中で僕はその程度の人間だって事か。


「馬鹿ね。別れるのは寂しいに決まってるじゃない。だけど、私たちだってこの世界にずっと居ちゃいけないってのは分かってるのよ」


 僕が嫌われている訳ではないと分かって少し安心した。

 フォルテュナは分かってくれたけど、他の二人はどうなんだ?


「問題ない」


「そこの魔女の言う通り私も消される事に拒否反応はないわよ。もう少し遊びたいって気持ちはあるけどね」


 僕の周りにいる魔女が理解のある魔女で良かった。


「でも、他の人の魔女ってどうやって探すの? 普通は私みたいに持ってるなんて隠しているでしょ?」


 千景の癖に鋭い所を突いてくるな。


「癖にって何よ! これでも学校の成績は凛兄より良いはずよ」


 むっ。確かに僕が中学の頃より成績が良いと母さんから聞いた事がある。だが、今言っているのは勉強の事ではないんだ。

 それは良いとして探し出すのは運任せになってしまうな。最近様子がおかしくなったとか、変な事が起きるようになったとかそう言う情報を元に探していくしかないと思う。


「行き当たりばったりって事ね。確かにそれしか方法が思いつかないけど」


 何かいい方法があれば良いけどな。フォルテュナは何かいい方法とか知っているのか?


「知らないわね。魔法を思いっきり使って寄ってきた人から探すとか? かなり高い確率で寄って来そうな気がするけど」


 それでは普通の人も寄って来るだろ。それにフォルテュナが思いっきり魔法を使ったら何が起こるか分かった物じゃない。


「エヴァレットも特に思いつかないって」


「メルヴィナも同じ。魔女を探すような魔法は知らないって」


 うむ。やっぱりそんな簡単に見つける方法はないか。それができればレメイの居場所とかすぐに分かるもんな。

 やっぱりレメイたちを見つけるのを優先しつつ、魔女を持っている人を見つけたら説得して消していくしかないな。


「そうそう、魔女を持っている人から魔女を消すのってわざわざ戦う必要はないのよね?」


 あぁ、そう思っている。何も戦うだけが魔女を消す条件って訳ではないからな。話し合って消してくれるならそれが一番だと思う。


「まあ、難しいでしょうね。魔女がいるのを分かって魔法を使わない人はいないと思うし。そうなると手放すのが惜しくなっちゃうもんね」


 そうなんだよな。僕がフォルテュナと会ってからでも結構日数が経っているから他の人も多少なりとも魔女に愛着を持っているかもしれないんだよな。


「ここで話し合っても答えは出ないわね。方針としてはレメイたちを探しつつ他の人の魔女も消していくって事で行きましょう」


 さて、話も終わった事だし喫茶店を出ようと席を立ちあがるが、神前と千景は座ったままだ。


「先に帰って良いわよ。私はちーちゃんと話があるし」


 千景と? 僕がいなくなって悪口大会でも始めるのか?


「そんな無駄な時間過ごさないわよ。ちょっとちーちゃんの相談に乗ってあげるだけよ」


 いくら兄とは言え、僕は男だからな。男性には相談しにくい事もあるんだろう。

 話の内容が気にならない事はないが、僕がいては絶対に話をしないだろうと思い、僕は喫茶店を後にする事にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る