パニッシュメントその8、新光皇暦1215年

俺はかつて学んだ歴史について思い出すが、確かにフォックスアイやヒルドールヴといった名前は聞いたことがある。だが、シリアスやトワイライト・アゲインといった記述はどの教科書にもない。暴風雨によってアマナを撃退したと歴史には記されている。歴史に隠蔽された事件があるのか?それとも?

  


この世界そのものが嘘、あるいはここはあの世かもしれぬ。過去にこんなことが起きたことを信じるよりはよっぽど現実的であった。無論、現代でも信じられぬものは見た特異点、エクジコウ、そして何よりもアームヘッドそのものが信じられない。アームヘッドはそもそもなんのために産まれたのだ?

  


アームヘッドはここより遥か昔の伝説すら風化する向こう側の時代の記憶を持つ。スカージの永遠に色褪せぬ野心を思い出した。アームヘッドはあの怪物に対抗するため産まれた?ブラックシープを見ればその考えも浮かぶ。故に奴らはこの時代を選んだ?アームヘッドの存在しないこの時代を。

  


時間移動がそもそもできるかどうかなど、疑問はあまりにも多い。そして、記憶世界の不審な太陽、少しでも謎を解く必要があるかもしれない。自分の世界を取り戻すために。


そういえば何も食べていない。寝てもいない。もしかしたら呼吸も必要ではないのかもしれない。俺はただ見ているだけだ。俺はこの記憶の中を覗いているだけだ。ポーリーもそうかもしれない。ポーリーと話をしたのはアマナだけだ。他の連中は俺はおろかポーリーも見えない。

  


「世界の記憶を覗くことがタイムスリップの真実だとしたらどう思う?」ポーリーは常にそばにいる。「これも一種のタイムスリップだと思う」「ほう、では君がこの記憶を変えることができると思う?」「それはこの時代のものたちがすべきことだと思う」「なるほど、これは私のおせっかいか」

  


「仮にこの時代を外から来たものがいじくろうとしているなら止めるべきだと思うね」「でも、何が出来るんだ?」「うーん、...俺はお前にあの化け物とどっかいってもらうように説得するね。一石二鳥だ」「ひどい」「俺は巻き込まれたんだ。ここから出れてもハッピーエンドって訳じゃない」

  


「なあ」「出る方法は私も知らないよ」「そうじゃない、アームヘッドってなんなんだろうな」「いきなりどういうこと」「アームヘッドも俺の時代のものではない、どうして今甦ったんだろうな?」「その答えはわかるよ」「そうなのか」「聞かないのか?」「だいたいわかる」

  


「そうかい」「ここから帰れなかったら俺もアームヘッドになって現代に甦ろうかな」「ふっ、そうしてみたら?」「冗談だ、まだあがいて見せるぜ」俺はこういうどうでもいいことで時間を潰すしかなかった。寝れないからな。そして、あの怪物どもが遂に上陸を始めた。パトリシアは歴史を守れるのか?

  

パトリシアは仮面をかぶり、シリアスへの変化を目立たなくして戦いにのぞんだ。攻めて来ているのが人間ではないということがだんだんとアプルーエ連合軍側にも明らかとなっていた。先陣を切ったのはロボである。トワイライト・アゲインの軍勢を押し留める為である。

  


ゴレン軍が壊滅したのは本当だということをロボは理解した。あの異形の軍勢にとって変わられたのだ。アマナは人間を捨て、トワイライト・アゲインを呼び寄せた。一度の交戦である意味慣れた。異形の姿にである。あの姿は初対面にはショックが大きい。ロボが先陣をつとめた理由がそれだ。そして...。

  


弱点を知っていた。奴らは火に弱い。逆にいうとそれ以外に有効なダメージを与える手段が見つからない。知性は低く沿岸に押し留め、一度フォックスアイ領に侵入されて以降、二度目の侵入は許していない。ただ、「数が多すぎる」実際いくら撃退したところで数日後にはまた沿岸に上陸してくるのだ。

  


トワイライト・アゲインの襲撃は散発的だった。統制のとれていない集団が十数匹の編成で現れ撃退される。というのが続いていた。「おそらくこちらの戦力を見定めているのだろうな」「知性のあるものがいるということか?」「もちろん、いるだろう、アマナのような」

  


「どういうことなのだ」「人間をやめたものがいるだろう、奴らが知性を獲得しているとはいっても、戦術を持つまでの進化はまだ早い」シリアスとロボは浜辺と向かった。そこで待ち構えていたのは普段より多くのトワイライト・アゲイン、そして複数の人影だった。

  

俺は戦えないのか?これは記憶だ、干渉できるわけない。やってみろ。そんな義理はない。俺を巻き込んだだろう、それにお前も困惑してるだろう?

  


「あれはアマナ四天将軍!なぜここに!?」「シラカバ、なぜここに来た、逃げろ」「ヌウ、白樺...?」影のひとつが反応した。「プリテンダー将軍!あなたまで、いったい殿やあなた方はなにをなさったのか?」プリテンダーが跳び、こちらに着地した。パトリシアの倍の背丈、異様なジャンプ力!

  


「白樺、生きていてくれて嬉しいよ、我らが殿のところに馳せ参じた時にはもはや殿しか生き残っていなかった。宣戦を伝えたのだろ?大義であった」パトリシアがプリテンダーの首筋に蹴りを不意に入れた。だが、プリテンダーはそれを易々と受け止めた。「貴様、すでに人間では無いな?」「然り」

  


プリテンダーの背中から触手が伸びる、トワイライト・アゲインと同一!パトリシアは白樺を抱えると後ろへ後退。「やはり、そちら側につくか、人間の側に行くぞ。皆、攻めるぞ」プリテンダーが構えた。「わしらは雑魚の相手をするゆえ」「御意」「ワタシは殿に報告」「必要か...?」「では去らば」「アヤツ...」会話の隙を狙いシリアスは馬に乗り、プリテンダーに突撃、踏み潰す。だが、違和感。「油断するなよ、プリテンダー」別将軍が防御。

  


「ワシャ、舞黒将軍、おぬしは?」「我が名はシリアス」舞黒将軍は馬の脚を折ると、プリテンダー将軍のもとへ。「おぬしもまた、化け物じゃな、わしらに油断はない、二対一じゃ」ロボは別の将軍の相手をして手が出せぬ」そこに矢が飛ぶ。プリテンダーは舞黒を手に持ち振るう、舞黒は刀で矢を落とす。

  


「ヌウ、白樺。おぬしがわしらに勝てる道理は無いぞ」その時、プリテンダーと舞黒を巨大な足が踏む。ブラックシープだ。ブラックシープは白樺に手を差しのべる。「行くぞ、雑魚のあいてをしている暇はない。ブラックシープは海辺へとむかう。ブラックシープが水面へと脚をのせ地面のように歩く。

  


「アマナはこの向こうにいる、奴らの仲間が向かって行った」ブラックシープが向かうと、ドシンという音。後ろを振り向くと白い巨人が一体、いや二体!「わしらは雑魚ではないぞ」プリテンダーと舞黒が白い内臓集合巨人へと姿を変えた。続く。

  

「ヤバイぜ、奴らもアームヘッド、いやデカイ気持ち悪い化け物に。早くして」「マキータ、無理だといっているだろ、いや待てよ」「なんかあるのか?」「しかし、向こうが気づいているとはいえ...?」ポーリーが石を拾い巨人へ投げる。石がぶつかる。「拾えた...?」

  


マキータも地面に手をつける、確かに石が拾える。歴史記憶干渉のどこまでが可能かは不明だ。そもそも地面に立てている?俺はここに存在しているのか?ここは単に記憶の世界のはずだ。巨人は石には気付かず、ブラックシープへとむかう。ブラックシープの飛び蹴り!巨人が四散!「特異点制御シンギュラリティ・ルーラーが...」

  


四散した巨人は今まで同様、分離、小型個体となり、迫る。「特異点制御が誤作動しているぞ!これは現実だ! 」

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