第44話 銀スライムを倒すの。

 レイニィは、銀スライムらしきものを見つけたが、通路に詰まって引き出せずにいた。

 スライムを引き出すには、壁に空気穴をあけるしかない。


「結局それか――。で、どうやって開けるんだ?」

「あたしが魔法で開けるの!」


「大丈夫か、力加減を間違えれば、崩落するぞ」

「空気が通ればいいから、小さな穴を開けるの」


「小さな穴か、どうやるんだ?」

「水を使って壁を削るの」


「水で、この壁が削れるのか? 岩だぞ。まだ、剣を突きつけた方が削れそうだが」

「大丈夫なの。見ててなの」


 レイニィは地底湖の水を魔力で操って、壁に向けて、針のように細く、高圧で、噴射し続ける。

 ウォータージェットにより、壁にみるみる穴が開いていく。


「うおー。すごいな。水でも岩が削れるんだな!」


 十分と経たずに、ウォータージェットの水針(ウォーターニードル)は壁を貫いた。


「開いたの!」


 ヒューーー!


 穴から空気が吸い込まれていく。


「地底湖の水が溢れてきたぞ!」


「穴から空気を吹き込んで押し出すの」


 レイニィは魔法で、開けた穴から空気を送り込む。

 地底湖の水が噴き出すように溢れ出す。


「出てきたぞ。銀色だ!」

「やったの。銀スライムなの!!」


「銀スライムなのはいいが、でかいぞ」

「お嬢様のため、倒すしかないだろう」


 アイスがスライムに駆け寄り、剣を一閃した。


「ぐ。重いな」


 アイスの剣はスライムに食い込み、普通のスライムのように、両断することは出来なかった。


「なら、こうだ」


 アイスはスライムに剣を力任せに突き刺す。


「これでも核まで届かないか」


 スライムはウネウネ動いて、アイスに迫りくる。


「どいてなの!」


 レイニィの叫びに、アイスが飛び退く。


「貫くの!」


 レイニィの放った水針が、スライムの核を貫く。

 巨大な銀スライムが徐々に崩れていく。


「やったの。気圧計の材料ゲットなの」

「喜ぶところは、銀スライムを倒したところでなく、気圧計の材料が手に入った事なのだな。レイニィらしいな」


「お嬢様。やりましたね。それに比べて、俺はなんと不甲斐ない。スライムごときに遅れをとるとは……」

「そんな事ないの」


「いえ、まだまだ、精進が足りないようです。訓練を倍にしないと」

「頑張るの!」

「はい!」


 レイニィは水銀の代わりとなる、銀スライムを無事手に入れたのだった。


「重いの」


 レイニィが思わず愚痴をこぼす。


「お嬢様、ですから運ぶのは私たちだけで十分だと言いましたのに」

「そうだぞ、必要になればまた取りくればいいんだ。ちょうど地底湖の底に溜まったから、今度はそこから汲み上げるだけで済む」

「自分で使う分は、自分で運ぶの」


 倒した銀スライムを、壺に詰めて持ち帰ることにしたレイニィ達であったが、前回のRGBスライムと違い、銀スライムは非常に重かった。

 だからこそ、気圧計の材料になるのだが、鉄の塊を運んでいるようなものだ。

 僅かな量でも五歳児のレイニィには大変な負担だった。


 ある意味、銀スライムを見つけて倒すより、こちらの方が大変だった。


「遠足は家に帰るまでが遠足です」前世の記憶が、頭の中に浮かぶレイニィであった。


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