第43話 銀スライムを探すの。

 翌日、レイニィ達は再びスライムの洞窟に来ていた。


「お嬢様が作ったこの照明は本当に便利ですね」


 レイニィは、あれからスライムを利用したい照明を、エルダと共に改良し、魔石を組み込んで、合計三本作成した。その内二本を、今まで松明を持っていた護衛が、その代わりに持つ事になった。

 そして、残りの一本をアイスが腰に携えていた。


「これなら両手が使えますからね。剣を振るにも邪魔にならないし。松明じゃこうはいきませんからね」

「それはよかったの。小さくすれば、頭に付けられるの」


「ああ、そうすれば、向いた方向に光がいくのですね。それはいいかも」

「どのみちガラスを作らんことには、話にならん!」


 エルダは昨日から透明なガラスのことで頭がいっぱいだった。


「でも先生、小さい物なら水晶でいけるかもなの。箱の一つの面に水晶を埋め込めば、箱に入れたスライムから、一方向にしか光が出ないけど、それでも十分なの」

「そうか、値は張るがそれだけの価値がありそうだな。場所によっては、一方向にしか光を出さない方が都合がいいこともあるだろうしな」


 照明の方は好調であったが、銀(シルバー)スライム探索の方は、思うような成果がなかった。

 レイニィの能動探索(アクティブサーチ)で、怪しげな所を重点的に調べていたが、未だ手がかりすら掴めないでいた。


「本当に銀スライムがいるのですかね――」

「何年も前の目撃情報だからな。確実にいるとは言えんな」


「何年も前なのか――、じゃあ、もういないかも知れないじゃないですか」

「倒したという話も、洞窟からスライムが溢れ出したという話もないからな。いるとは思うのだが……」


 エルダが言葉を濁す。その時、レイニィが声を上げた。


「何か怪しい所を見つけたの!」

「怪しい?」

「行ってみればわかるの」


 レイニィはアイスに指示を出し、洞窟の中を進んだ。やがて一行は地底湖の畔に辿り着いた。


「地底湖があるな。こんなところにあったかな?」


 エルダが以前来た時には、ここに地底湖はなかった。


「この地底湖、この壁の向こうの空間と繋がってるの」

「通路が水で水没してしまったのか――」


「この奥に、見なれない大きな反応があるの」

「なら俺が潜って確かめてきます」


 アイスが、地底湖に潜る準備を始める。


「待つの!反応は、壁の向こうの空間にでななく、通路の途中にあるの」

「水の中で戦う事になるのはまずいな」


「じゃあ、どうする?」

「魔法で引き摺り出してみるの」


「なら、出てきたところを倒せばいいですね」

「それじゃあいくの!」


 レイニィは、魔力を込めて通路の中身を引き摺り出そうとしたが、うまくいかなかった。


「駄目なの。動かないの。少し引っ張れても、また戻っちゃうの」

「この先の空間が密閉空間なんじゃないか?」


「そうかもなの」

「密閉空間だと問題なのか?」


 レイニィやエルダにとっては常識でも、アイスには理由が分からない。


「空気が抜ける穴がないと引き出せない。そうだな。壺に水を満たして、桶の水の中で逆さにしても、壺の水は壺の中にあるだろ。そんな感じだ」

「そうなのか?」


「まあいい。兎に角、空気穴を開けなければ引き摺り出せない」

「この壁に穴を開けるのか?大丈夫か?」


「穴を開けなくてもいい方法があるの」

「そんな方法があるのか?」


「向こう側の空間の空気を温めるの」

「ああ、温度計と同じ原理か」


「そうなの」

「温度計?」


 レイニィとエルダのやり取りは、アイスには難しいようだ。


「空気は温めると膨張するんだ。それを利用する」

「膨張するんですか。へえー」


「じゃあ、やってみるの」


 レイニィは、魔力をこめて、壁の向こうの空間の温度を上げようとする。しかし、これもうまくいかなかった。


「駄目なの。反応がないの」

「壁が厚すぎて届かないか……」


「そうじゃないの。空間があるのに空気が無い感じなの」

「真空状態ということか。そんな状態になるか?」


「通路に詰まってるのが銀スライムならあり得るの。自然の気圧計状態なの」

「気圧計? 今回作ろうとしていたやつだな」

「そうなの!」


「それで、これからどうするんだ?」

「仕方がないから、壁に穴を開けるの」


 始めの案通り、結局、壁に穴を開けることになった。


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