第42話 RGBなの。

 三種類のスライムを持って帰ったレイニィは、次の日は洞窟には行かずにエルダの家で実験をする事にした。


「ううう。勿体無いけど、ガラスがないから、透明なアントの脚を使うの」


 レイニィは銀(シルバー)スライムが手に入ったら、すぐに気圧計が作れる様にと、持ってきていたアントの脚を、荷物から三本取り出した。


「それを使うのか?」

「洞窟の中を歩くのに、これから作るものがあった方が便利なの。効率よく銀スライムを見つけるためなの。尊き犠牲なの――」


「さっきから、言葉と裏腹に身体が拒否している様だが、大丈夫か?」


 レイニィはアントの脚を握ったまま、小刻みに震えたまま、次の動作に移ろうとしなかった。


「ううう。身体がいうことを訊かないの」

「どれ、貸してみろ。私が代わりにやってやろう」


「お願いしますなの」

「ほら、よこせ」


「はいなの」

「だから。よこせって」


「どうぞなの」

「なら、その手を離せ」


「離すの」

「だから、離せって。余計強く握ってるじゃないか。こうなれば力尽くで、ぐぬぬぬ!」


「あ、駄目なの。割れるの!」

「そう思うなら、サッサと離せ!」


 エルダは力を込めてレイニィからアントの脚をうばいとった。


「ハア、ハア、ハア。子供のくせに随分力があるな」

「ううう。力尽くで、あたしの大切なものが奪われてしまったの。もう、お嫁にいけないの……」


「人聞きの悪いことを言うな。それに、何故お嫁にいけなくなる?」

「大事な嫁入り道具なの」


「気圧計がか? どんな嫁だ! まあ、この脚自体は高価だから、持参金にはなるな」

「持参金なんてとんでもないの。温度計、湿度計、気圧計は三種の神器なの」


「嫁入り道具を飛び越えて、神器ときたか。はいはい、その神器を作るために、これから作る物が必要なんだろ。サッサとやるぞ」

「わかったの。サッサとやるの」


 レイニィは諦めて、エルダに作業の手順を指示することにした。


「まず。アントの脚、管の片側を塞ぐの」

「塞ぐのか――、取り敢えず粘土でいいか」


「次にスライムを管に注ぎ込むの」

「スライムを入れるんだな。――よし、できた」


「管の反対側も塞ぐの」

「はいはい。粘土で塞いで」


「これを三種類とも同じ様に作るの」

「赤はできたから、後は緑と青だな」


 エルダは残りの二種類も作る。


「できたぞ。次はどうするんだ」

「これからは実験なの。三本を並べるの」


「並べる。こんな感じでいいか?」


 エルダはテーブルの上に管を縦一列に並べた。


「そうじゃないの。横に並べるの」

「ああ、はいはい。これでいいか」


 エルダは横に並べ直す。


「それでいいの。後は、魔力を込めるの」

「三色に光るだけだが、これでいいのか?」


「これでいいの。上を見るの」

「上? 天井に何か……。照らされてるな。赤でも緑でも青でもなく、白色で!」


「ここまでは成功なの」

「これはびっくりだな。三色を合わせると白色になるのだな。この後はどうするんだ」


「後は、三種類の光の強さをそれぞれに変えてみるの」

「おー。色々な色が出せるのだな。これは綺麗だな」


「これを小さくして、たくさん並べれば、動く絵ができるの」

「動く絵だと。想像がつかんが、見てみたいな」


「それが出来る様になるまでには随分掛かるの」

「そうか、それは残念。いや、将来が楽しみか。ところで、そうなると、何が洞窟で役立つんだ」


「松明の代わりになるの」

「ああ、そうだな。松明よりは便利そうだ。だが、三本に分かれていたら持ち難いぞ」


「だから、一本にまとめられないか試してみるの」


 レイニィは一旦、スライムを管から取り出すと、別の容器を用意して、三種類を混ぜ始めた。


「何か黒っぽく汚い色になったが大丈夫なのか?」

「わからないの」


「わからないって……」

「わからないからこその実験なの」


「まあ、そうだな。これをまた管に詰めればいいのか?」

「そうなの」


 黒っぽく汚いスライムが入った管が出来ると、レイニィは魔力を込めた。

 管からは綺麗な白色光が放された。


「成功なの!」

「これなら持つにも困らないし、熱くないのだな。火傷する心配もない。魔石を組み込んでやれば誰でも使える。立派な魔道具だ。これは売れるぞ!」


「駄目なの」

「何でだ! こんな便利な物、みんなに使ってもらった方がいいだろう」


「透明な管がないの」

「あー。そうだったな」


 エルダは、昨日レイニィが叫んでいた「ガラスが必要なの!」と言う言葉を思い出し、同じことを叫びたくなったのだった。


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