第28話 温度計に目盛りを付けるの。

 レイニィは念願の温度計を完成させた。


「これで完成なのか?」


 エルダが、完成した温度計を興味深げにいろいろな方向から眺めながら、レイニィに聞く。


「そうなの。暑くなると管の中の油が上に上がって、寒くなると下がるの」

「ふーん。で、目盛というのはどうするんだ?」


「そうだ、お姉ちゃん、桶と水が必要なの」

「桶はあるけど、これだけの水は汲んでこないとないわ」


「じゃあ汲んでくるの」

「ちょい待ち」


 水を汲みに部屋を出て行こうとしたレイニィをエルダが止めた。


「先生、何なの?」

「丁度いいから魔術の練習だ。水魔法で水を出してみろ」


「この桶いっぱい? いくらレイニィでも無理じゃないかしら?」

「うーん。頑張ってやってみるの」


「やり過ぎるなよ」

「頑張って、レイニィ」


 レイニィは桶の上に手をかざし集中した。

(水を出すには……。空気中の水蒸気を結露させるのが一番簡単かな。なら空気を冷やしてっと)


「レイニィ、凄いわ、水滴が落ち始めたわよ」

「おお、流石だな。一回で成功するとは。だが、これじゃあ桶一杯になるのに随分かかるぞ」


(そうだ、この部屋の中全体の水蒸気だけでは桶一杯にするのは無理だろう。なら、外の空気も持ってきて、循環させればいいか)


「あら、なに? 風が吹いてきたわ?」

「おー。水の出来る速度が上がったな。これならすぐ一杯になるぞ」


 桶の八分目まで水が溜まったところで、レイニィは魔法を使うのをやめた。


「こんなものでいいの」

「それで、これをどうするんだ」


「これを先ず、氷水にするの」

「今時、氷なんてないわよ」


「それは、魔法でどうにかなると思うの」

「氷魔法も使えるのか?」


「やってみないとわからないけど、出来ると思うの」


 姉の応援を受け、レイニィは再び桶に手をかざし集中した。


(水の温度を下げる。空気と同じ要領で、魔力を引き抜いて、エネルギー量を下げて、分子の動きを鈍くする)


「まあ、水の表面が凍ってきたわ。凄い凄い!」

「もう、私の教える事ないんじゃないか――」


 桶の水の表面が凍ったところで、温度計を桶の氷水に浸ける。


「なるほど、管の油が下がってきているな」

「氷水に浸けて下がり切ったところが、零度と決めるの」


「零度以下はないのか」

「氷水の間は変わらないの。完全に凍りつけばもっと下がっていくの」

「そうなんだ――」


「零度が決まったら、次に百度を決めるの」

「どうやって決めるんだ?」

「水を沸騰させるの。それが百度なの」


 レイニィは魔法で桶の水を熱して沸騰させる。


「上げ下げ自由か――。これなら火魔法もすぐ出来るだろ」

「お湯がすぐ沸かせるなんて便利ね」


「油が上がり切ったな。この位置が百度か」

「後は、等分に目盛を振ればいいの」


 温度計を桶から出し、目盛りを振ると、部屋のテーブルの上に置いた。


「それで、今の温度は二十五度ということか」


 完成した温度計をエルダが読み上げる。


「空気の温度は気温というの。気温二十五度、夏日なの」

「夏日?」


「二十五度で夏日、三十度で真夏日、三十五度で猛暑日なの。

 真夏日になると暑さで体調が悪くなる人が増えてくるの。そして、猛暑日では外で活動するのは危険なの」

「なるほどな。これを見れば注意できるんだ」


「そうなの。それに、寒い時は雪になるか雨になるか目安になるの」

「雪と雨では大違いですものね。それは助かるわ」


 温度計は二人に好評であった。

 気を良くしたレイニィは、もう一つ作って、ミスティにプレゼントしたのであった。


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