第26話 先生にばれるの。

 レイニィは自重なしに風魔法を使って、辺りに天災級の被害をもたらした。


「あ、ごめんなさい。つい、楽しくなって、我を忘れていたわ。じゃない、忘れてたの」

「今更、ブリッコしても駄目だぞ。ダウンバーストとかガストフロントって何だ!」


「ダウンバーストっていうにはね。上昇気流で支えられていた冷たい空気の塊が、上昇気流がなくなって一気に落ちて来ることで、ガストフロント――」

「言葉の意味を聞いたのではない。その知識、どこで手に入れた!」


「……」


 レイニィは焦っていた。

 どうやって誤魔化そうかと。

 だが、この状況で、誤魔化す方法などない。


 しかし、そこに助けの手が入った。

 何事かと屋敷の者達が見に来たのである。


「どうしたんだ、これは?!」


 ゲイルが更地状態になってしまった裏山を見渡して聞いた。


「ごめんなさいなの。魔法の練習が楽しくて、やり過ぎちゃったの」

「レイニィがやったのか? でもこれは、災害級じゃないか――」

「竜巻とか出してましたから、正に災害ですね」


 エルダがゲイルに状況を報告する。


「ごめんなさいなの」

「まあ、被害がここだけならいい。それより、レイニィは平気なのか。怪我とかしてないか」


「うん、大丈夫なの」

「そうか、それはよかった。でも、いつ怪我をしてもおかしくなかったんだぞ。こんな危ない魔法は使っちゃ駄目だぞ」


「はい、わかったの」

「わかればよし。それじゃあ屋敷に戻ろう」


 ゲイルはレイニィを抱き上げて屋敷に戻っていった。


「しかし凄いな。これが大魔術師の実力か」

「レイニィは『お天気キャスター』を目指しているそうよ」


 呆れた様子のドライにミスティが声を掛ける。


「『お天気キャスター』? 何だいそれ?」

「さあ。詳しくは聞いてないから。私が考えるに、大魔術師の上位職じゃないかしら」


「おいおい、大魔術師は上級職だぞ。その上があるのか?」

「でも、レイニィは仮職(プレジョブ)が大魔術師よ。努力次第でその上に行ける可能性がないとはいえないわ」


「それはそうかも知れないが……」

「それに、レイニィは女神の加護で私達の知らない知識を得ているのよ」


「なに! それは本当か?」


 ミスティの言葉に、姉弟の話を聞いていたエルダが飛び付いた。


「エルダさん! ええ、レイニィがそう言っていたわ」

「そうか、女神の加護で得た知識なのか……」


「その知識で色んな物を作っているわ。風向風速計だとか湿度計だとか」

「そう言えば、温度計? の材料に必要だとアントを狩りに行ったんだったな。温度計? はできたのか」


 ドライは名前だけ聞いて、どんな物かわからなかったが、レイニィがそれを凄く作りたがっていたのを思い出した。


「まだみたい。あの後バタバタしてたから」

「温度計とは何だ」


 エルダも温度計を知らなかった。というか、この世界、温度という言葉がなかった。


「暑いとか寒いとかを測る道具みたいですよ」

「暑いとか寒いとかが温度なのだな」


「多分……。詳しくはレイニィに聞いてください」

「ああ、そうだな。そうするか」


(女神の加護による知識が、レイニィの魔術のイメージに影響しているのは間違いない。新しい知識。これは詳しく教えてもらわねば。それに他にも隠していることがある様子だが――)


 人の何倍も生きてきたエルダにとって、新たな知識を得る事は掛け替えのない事だった。

 レイニィの元に来て正解だったとエルダは思った。


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