第25話 風魔法楽しいの。

 午前中、土魔法を習得できたので、お昼を食べて、午後からは風魔法である。

 レイニィの規格外さをわかってきたエルダは、最初から屋外で訓練をする事とした。


「昨日も話したが、風魔法は空気を動かす。空気とは何もない様に思うかもしれないが、実際には空気という物がここにあるのだ。それをいかにイメージするかが成功の鍵になる」


 レイニィは黙って聞いていたが、前世の記憶があるレイニィにとっては、空気をイメージする事は簡単なことであった。

 寧ろ、エルダよりしっかり理解しているだろう。

 特に、レイニィは『お天気キャスター』になりたくて、気象予報士の試験を受けていたほどだ。

 たとえ合格できていなかったとしても、空気の流れに関する見識は、一般人の比ではない。


「では、先ずは、あの木の葉を風で揺らしてみよう」

「はい、いくの」


 レイニィは木の葉に向けて手をかざし、魔力を込めていく。


(空気は、窒素と酸素とその他の気体の集まり。この分子を土魔法と同じ要領で魔力を使って動かす)


 そよ風が吹いて、木の葉が揺れた。


「成功だな。それではもう少し強くしてみようか」


 エルダはレイニィがいきなりやらかして、木を根こそぎなぎ倒さなかったことに安堵した。

 一方、レイニィはその結果に不満だった。


(分子レベルで動かそうとしたのが不味かったかしら。分子千個を動かしても、風としては、たかが知れているものね。

 やはり風といえば気圧差よね。上昇気流と下降気流によって気圧差が生じるのだから、上昇気流を作るには温度を上げて、下降気流を作るには温度を下げればいいわけよね。

 温度を上げるには分子運動を早めればいい。そのためには、エネルギーである魔力を与えてやればいいはず。逆に温度を下げるのには、魔力を奪えばいいのよね。

 うん。大丈夫、しっかりイメージできた)


「もう一度、いくの」


 今度は、突風が吹き、木を根本から大きく揺らした。


(うん、やっぱりこのイメージだわ)


「やったの」

「やったの、じゃないぞ。いきなり強くしすぎだ!」


「まだまだ強く出来るの」

「まだ強く出来るのか?」

「試してみたいの!」


 エルダはレイニィがどこまでの魔法を使えるか興味があった。


「この林は既に酷い有様だし、ここでなら試してみてもいいか――」

「やったの!」


 レイニィは喜んで色々と風魔法を試した。

 前世の気象の知識を使って、自重なしに。


「旋風!」

「真空斬り!」

「竜巻!」

「ダウンバースト!」

「ガストフロント!」


「あはははは。楽しいー!」


 レイニィは嬉しくてハイテンションだ。次々に風魔法を放っていく。


 一部、 気象以外の知識もあった様だが、その威力は絶大だった。


「おいおい、いくら試していいと言ってもやりすぎだ。林が更地状態じゃないか!」


 大木が全て薙ぎ倒され、折れた枝が空を舞っていた。


 正に、自然災害!

 神罰に匹敵するような天災だった。


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