第19話 証明するの。

 クィーンアントを自分が倒したことを証明するため、レイニィは商人たちの前で魔法を使って見せることになった。

 しかし、自分で特訓はしてみたが、思うように魔法を使えるようにならなかった。

 後は、ぶっつけ本番の奇跡に賭けるしかない。

 レイニィは意気込んでいた。


「それじゃあレイニィ、あの的を攻撃してくれ」

「はい、いきますの!」


 レイニィは的の案山子に手を向け、集中して魔力を集める。


 一生懸命に何かを成し遂げようとする子供は、健気で、可愛らしいものである。商人達から応援の声が上がる。


「頑張れ」

「集中、集中」

「もう少しだ」

「レイニィたん。ハアハア」


 レイニィは、なおも魔力を集めていくが、魔法が放たれることはない。


「あー。やっぱり無理かな?」

「諦めてもいいんだよ」

「頑張ったのはよくわかったよ」

「レイニィたん。可哀想――」


 それでもレイニィは諦めない。魔力を集め続ける。


「そろそろ諦めたらどうだ」

「勝手にやらせておけ。私たちはクィーンアントの値段を決めよう」

「そうだな。誰のものになるか決めなければな」


(何勝手なこと言ってるの! あれは私のよ!! 勝手に持って行かないで!!! 私はあれで温度計を作るのだからーーー!!!!)


 レイニィの怒りが爆発した。


「温度計作るんだから、駄目なの!!」


 その途端、レイニィが集めていた魔力が解き放たれた。


 ピカ! ビカビカ! バシ! バリバリ! どかーん!!


 レイニィから放たれた魔力は、的の案山子を黒炭と化し消滅させ、その後ろの林を引き裂いていった。


 商人達はびっくりして腰を抜かしている。

 父親のゲイルも余りの威力に開いた口が塞がらない。

 魔法を放ったレイニィ自身も呆けている様子だ。


 そこに一人の少女が出てきてレイニィに声をかけた。

 その少女の耳は尖っていた。


「流石は大魔術師の仮職(プレジョブ)を得ただけはあるわね。まさかこれ程とは思わなかったわ」

「あなたは?」


 レイニィは正気を取り戻し、少女に問い掛けた。


「エルダよ。ご覧の通りエルフなの」


 エルダはそう言って、自分の耳を触る。


「あなたの魔術の先生として来たのだけれど。必要なかったかしら?」


 エルダは引き裂かれた林の方に目をやる。


「そんなことないの! 先生を待ってたの。私、レイニィなの。よろしくお願いしますなの」

「レイニィね。こちらこそよろしくね」


「はい! なの!」


 腰を抜かした大人達を放って、二人で盛り上がるレイニィとエルダだった。



 結局クィーンアントは、レイニィが倒したことが認められ、レイニィのものとなった。

 その上で、脚以外の頭と胴体が商人に販売された。その値段は、白金貨百二十枚。

 当初、完全な形で白金貨百枚といわれていたのだから、脚がないことを考えると倍近い値段となった。


 何故これ程までに値が上がったかというと、レイニィの魔法のせいである。

 あれだけの魔法を見せ付けられ、ある者はこの件で恨みを買い、報復を恐れて、また、ある者はお近付きになるために、値を吊り上げていったのであった。


 こうして、レイニィは五歳にして白金貨百二十枚を得たのだった。

 しかし、レイニィにとっては、白金貨百二十枚よりも、温度計の材料が手に入ったことの方が百倍嬉しかった。


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