第16話 アント狩りから帰るの。

 アントの巣穴から無事脱出したレイニィ達は、改めてアイスの火傷の治療をしていた。


「アイス。大丈夫なの?」

「これぐらい大したことはありませんよ、お嬢様。アイスにすればお嬢様を助けた名誉の負傷ですから、勲章のような物です」


 治療にあたっていたスノウィが治療を終えアイスの背中を叩く。


「はい終わり!」

「あ痛! ちょっとは優しくしろよ」


「アイス。やっぱり痛むの?」

「いえ、少し赤く腫れているだけです。大したことはありません。これも、お嬢様が助けてくれたお陰です」


「助けてもらったのはこっちの方なの。アイスが庇ってくれなかったら、火傷していたのはあたしだったの」

「そうだ、アイス。よくレイニィを庇ってくれた。感謝する」


「ドライ様。護衛として当然のことをしたまでです。頭を下げていただく必要はございません」

「いや、元はといえば、俺が穴に落ちたせいだ。すまなかった」


「それなら、あたしが一人で先に行ったのが最初なの。ごめんなさいなの」

「いえ、お二方とも悪くありませんから、頭をあげてください。それより、レイニィ様のあれは魔法ですか?」


「えー。そうなのかな? 魔術はこれから習うことになってるけど、自分でもわからないの」

「レイニィは仮ジョブが大魔術師だからな。咄嗟に魔法が使えても不思議ではない」


「そうなの? あれが魔法なの――。雷みたいなのが、ババーンって出たの」

「おい、こらこっちに向けるな!」


 レイニィはドライの方に、魔法を放った時と同じように手を向けている。


「大丈夫なの。お兄ちゃんに向けて魔法は使わないの」

「本当に大丈夫なんだろうな――」


「しかし、あれを見たら大魔術師というのも肯けます。将来が楽しみですね」

「そんなことより、早く屋敷に帰るの」


「何だ、家が恋しくなったか。今夜は村に一泊だぞ」

「違うの。早く帰って、アントの脚で温度計を作るの」


「ああ、それが目的だったな。明日の朝は早めに出発しよう」

「やった!」


「ドライ様は、本当にレイニィ様に甘いですね」

「あんな可愛い妹なら当然だろ」

「まあ、そうですね」


 巨大なクィーンアントに襲われた事などどこ吹く風といった、ほのぼのとした空気が漂うのだった。


 村の宿では、おかみさんが巨大なクィーンアントにびっくりしていた。


「まだこんな大物が残ってたんだね。あんた達、怪我は無かったのかい。見かけによらず強いんだね」

「あはは。妹が一撃で仕留めましたからね」


「その可愛い子がかい? 何の冗談だい」

「あたしが仕留めたの。あたし強いの!」


「ああ、はいはい。お嬢さんは強いんだね。凄いわね」


 おかみさんは、子供を喜ばせるための冗談だと思った。


「冗談ではないんだがな――」


 ドライは、おかみさんに聞こえないようにぼそりと呟いた。


 翌朝、レイニィ達はドライの宣言通り早い時間に村を出発し、昼過ぎには港町ライズにある屋敷に到着した。


 レイニィは早速、温度計の作成に取り掛かろうとしたが、巨大なクィーンアントンとレイニィの魔法のことで、慌ただしくなり、それどころではなくなってしまった。


 お預けを食らったレイニィは膨れっ面だった。

 膨れっ面のレイニィも、それはそれで可愛いと、家族に愛されていた。


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