第14話 アント狩りに行くの。

 レイニィ達は温度計用に透明な管を得るため、透明なアントを狩るべく、馬車で屋敷を早朝に出発した。

 同乗するのは、レイニィ、次男で兄のドライ、侍女のスノウィ、護衛のアイス。

 他に御者と、馬に騎乗した護衛が四人であった。

 目的の小山までは、馬車ならお昼過ぎに着く予定だ。


「お兄ちゃん、お昼はどうするの?」

「アントがいる小山の近くに小さな村がある。今夜はその村の宿に泊まる予定だから、先に宿をとってそこでお昼にしよう」


「何か美味しいものがあるといいの」

「レイニィは食いしん坊だな」


「食いしん坊じゃないもん。美食家なの」

「そうか、美食家か。俺は、質より量だけどな」


「食いしん坊なのは、お兄ちゃんの方なの!」

「ははは。そうだな」


 そんな穏やかな会話をしているうちに、予定通り、目的の村に到着した。

 そこで宿をとり、昼食にする。


 鳥肉を焼いて、トマトソースを絡めた物に、パンが出てきた。マッシュポテトも添えられていた。


「お兄さん方は、この村に用があるのかい?」


 恰幅の良い店のおかみさんが話しかけてきた。


「この近くの小山に、透明なアントが出ると聞いて狩りに来たんだ」

「そうかい、それは残念だったね。透明なアントは先週狩り尽くされたという話だよ」


「えー。もういないの?」

「先週までは人が沢山来て狩ってたけれど、今週になってからまったく獲物が見られなくなってね。狩り尽くしてしまっただろうってことで、人も来なくなったんだよ」


「そうですか。でもせっかくここまで来たので、一応確認してきます」

「まあそうだね。自分で確認した方が納得いくだろうし、もしかしたら一匹ぐらいいるかもしれないからね」


「絶対見つけるの!」

「その意気なら、見つかるかもしれないね」


 昼食を食べ終わると馬車と御者を村に残して、他の者達で馬に二人乗りし、小山に向かった。

 小山までは馬で行けば三十分もかからなかった。草原の真ん中に小高い赤土の山ができていた。

 近づいてみれば、所々、五歳児のレイニィなら潜れるくらいの穴が開いていた。


「ここがアントの巣なの?」

「そうだな。話によると全部狩り尽くしてしまったようだが――」


「山の周りを一回りしてみるの」

「そうだな。よし、お前達二人はこの穴を見張っていてくれ、他の者達で山の周りを回ってみよう」


 アイスを先頭に山の周りを巡る。

 途中、レイニィが山の中腹に、他より大きな穴を見つけた。


「あんな所に大きな穴が開いてるの。行ってみるの」

「あ、駄目です。レイニィ様、一人で先に行かれては」


「こらレイニィ、待ちなさい」

「お嬢様、危ないですよ」


 レイニィが周りの制止も省みず走り出した。


「うわー。これなら中に入れそうなの」


 レイニィは大穴を覗き込んだ。

 穴は下に向かって続いていた。


 そこに、ドライとアイスが追いついた。


「こら、レイニィ、駄目だろ一人で先に行ったら!」

「そうですよ。何もいないと決まったわけではないのですから」

「ごめんなさいなの」


 先走ってしまい、皆に心配をかけてしまったと、レイニィは素直に謝った。


「わかればいい。しかし、この穴は中に入れそうだな?」


「ドライ様も駄目ですよ。中に入るのは危険すぎます」

「心配するな、少し覗くだけだ――。うわー!」


「お兄ちゃん!」

「ドライ様!!」


 ドライの足元が崩れ、穴に滑り落ちた。

 助けようとしたレイニィとアイスも一緒にだ。

 三人は、そのまま穴の底まで滑り落ちてしまった。


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