第5話 記憶が戻った。

 教会に着くと、レイニィ達は牧師により礼拝堂に通された。

 礼拝堂では、レイニィが祭壇の前に膝を付き、その横に牧師が立ち、細かな指示を与える。

 両親や護衛達は、少し離れて、後ろからレイニィを見守っている。


 牧師の指示通りレイニィが祈りを捧げると、天から光が差し込み、一通の封筒が舞い降りてきた。

 レイニィは、牧師の指示通り両手の平を上に差し出すと、その封筒が手の平の上に落ちてきた。


 すると、どうしたことだろう。レイニィが光り輝いた!


「これは……!」


 天から封筒が舞い降りるのは、いつものことであるが、それを受け取った者が光り輝くことは珍しい。

 予定になかったことに、牧師が思わず声を漏らす。

 離れて見守っていた家族たちもざわついている。


 それでも牧師は平静を装いレイニィに指示を与えた。


「ちゃんと自分のものであるか、中身を確認してください」


 レイニィは少し困った。


「あの、私まだ文字が読めません」

「大丈夫ですよ。神の文字で書いてありますから、文字を知らなくても誰でも読めるのです」


「そうなのですか。……流石ファンタジーですね」

「なんと言いましたか?」


「いえ、何でもありません。封を開けますね」


 レイニィは、ファンタジーと言ったことを誤魔化して封筒を開けた。

 そして中身を取り出した。


「え?! えーーー!!!」


 レイニィは思わず声をあげた。

 それというのも、普通サイズの封筒から取り出されたのは、二枚の便箋と百枚は超えるであろう紙の綴りだったからだ。


 どう考えても入りきるはずがない。


「これは、これは――」


 牧師は紙の綴りを見て、驚いているというよりは感心していた。


「先ずは便箋を確認してください。便箋は二枚入っていましたか?」

「はい、二枚入っていました」


「では、便箋の一枚目は、名前と仮職(プレジョブ)、それに、賞罰が書かれているはずです。自分の名前が書かれているか確認してください」

「はい。えーと。名前は間違いありません」


「そうですか、それは良かった。その紙は身分証明書になります。一生使いますから、失くさないように、大切にしてくださいね」

「はい、分かりました」


「もっとも、失くしても戻ってきますけれどね」

「そうなのですか――。流石……」


 レイニィは、今回はファンタジーと言うのを思い留まった。


「名前の下に仮職が書かれていると思いますが、それは、あなたに一番適性がある職(ジョブ)が書かれています。

 そして、その紙の綴り。

 それにはその職を得るために、あなたが達成しなければならない試練が書かれています」

「これ全部ですか?」


 レイニィは、紙の綴りをパラパラと捲ってうんざりした。


「そうです。普通はそんなに多くはないのですが。頑張って努力してください。そして試練以上に努力すれば上級職を得ることもできます」

「はあ――」


 レイニィは、もう空返事をすることしかできなかった。


「仮職の下に書かれているのが、賞罰です。良いことを重ねれば、そこに賞として、悪いことをすれば、罰として書かれますから、悪いことをしてはいけませんよ」

「はい」

(身分証明書に書かれてしまうのか、前科者にならないように、注意しなければ)


「次に、便箋の二枚目です。私の考えが正しければ、それには、あなたに与えられた神の祝福について書かれているはずです」


 そう神父に言われて、レイニィは二枚目の便箋に目を通す。

 そこに書かれていたのは女神の加護だった。


 女神の加護:前世の記憶(異世界)、魔力無限、自己再生


(これ、そのまま伝えたら不味い事になるかもしれない)


 不都合な事態になりそうな予感もあり、レイニィは考えた末、女神の加護を受けたことだけを伝えることにした。


「えーと。女神の加護を受けていますね」

「それは、おめでとうございます。神の祝福を受けられるのは非常に珍しい事なのですよ。それで、どのような加護です?」


「えー、それはちょっと言えないかな?」

「そうですか。きっとそれだけの試練を達成するための加護でしょうから、加護に驕ることなく努力してくださいね」


「はい、肝に銘じておきます」

「おや、随分と難しい言葉を知っているのですね?」


「え、そうですか?」

(不味い、不味い。前世の記憶が戻ったのがばれてしまう。暫くは気を付けて子供らしくしていなければ)


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