第78話 命乞い
「ガアァーー!!」
「…………」
研究員によって6本腕の魔物へと変異した人間が、指示に従うようにレラへと襲い掛かる。
巨体に似合わず素早い攻撃。
6本の腕を振り回す攻撃を、レラは無言でステップを踏んで躱した。
「いいぞ!!」「殺れ!!」
魔物をけしかけたことで、ひとまず自分たちの脅威が去ったため、研究員たちは声援を上げる。
戦場で何人もの人間がこの魔物によって殺されているが、彼ら研究員は遠くから見ていることしかできない。
この魔物によって、人間がどのように死滅するのかも研究の材料になる。
それと同時に、自分たちに恐怖を与えたレラが死ぬところが単純に見たいだけなのかもしれない。
どちらにしても、レラからしたらクズな人間だとしか言いようがない。
「フッ!!」
「ガウッ!!」
攻撃を避けたレラは、右手を魔物に向けて風魔法を放つ。
風の刃が迫ると、魔物は6本の腕に流す魔力を増量し、強化することで風の刃を弾き飛ばした。
生身の腕でそんな事をして魔力の調節をミスすれば、通常は大怪我を負うものだが、魔物の腕は皮一枚斬っただけで、ほとんど無傷だった。
「……人間の時の知能が残っているようね」
自分の魔法に対し、きちんと対応している。
見た目からは想像しにくいが、知能を使用して戦っているようだ。
元々は人間、その時の知識を利用しているとレラは予想した。
「でも、所詮は魔物。それに、邪魔をするなら誰であろうと殺す」
研究員を皆殺しにするのは、限の復讐の1つだ。
もちろん限だけでなく、自分にとっても彼らは生かしておけない存在だ。
あまり時間をかけて、ラクト帝国側の兵が集まってきては面倒なことになる。
そのため、レラは6本腕の魔物へと薙刀を構えた。
「ニール様。ご協力お願いします」
「キュッ!」
薙刀を構えたレラは、小さくなってポケットの中に入っているニールへと小声で話しかける。
その言葉に、ニールは任せてと言うかのように返事をした。
その返事を受けて、レラは笑みを浮かべて魔力を放出した。
「ハッ!!」
放出した魔力を全身に纏い、身体強化したレラは床を蹴る。
そして、一直線に6本腕の魔物へと接近した。
「な、何を……!?」
「ガッ!?」
そんな直線的に向かって行けば、魔物の攻撃の餌食になることは明白だ。
そのため、研究員たちはレラが何をしたいのか理解できなかった。
6本腕の魔物も、ただ突っ込んでくるレラを不思議に思いつつ、カウンターのタイミングを計った。
「ガアァーー!!」
腰を落とし、魔力を高めた右腕3本によるカウンターが、直線的に接近するレラへ向けて放たれる。
タイミング的には完璧だ。
直撃すれば、レラの頭部は爆散するだろう。
しかし、
“ガンッ!!”
「っっっ!?」
カウンターはレラに当たらなかった。
正確に言えば、レラに当たる直前に何か壁のような物に当たり、拳の軌道がずれたのだ。
「シッ!!」
「ギャウッ!!」
レラの薙刀による袈裟斬りによって、6本腕の魔物の体は斜めに両断され、大量の血をまき散らしながら床へと崩れ落ちた。
「ありがとうございます。ニール様」
「キュッ!」
魔物が死んだことを確認したレラは、ポケットの中のニールへ感謝の言葉を呟く。
その言葉に、ニールは返事する。
先程、魔物の攻撃を防いだ壁のような物。
それはニールが作り出した魔力壁だ。
攻撃に集中するために、レラはニールの協力を求めたのだ。
亀のニールは、その種族特性から防御は得意。
魔力壁を作って6本腕の魔物の攻撃を反らすなんて、ニールからすれば朝飯前だ。
本当は、復讐対象である研究員たちを殺すことにニールの力を借りるなんて申し訳ないと思っていたが、そんな小さなことにこだわって余計な時間を取られるよりはいいだろう。
「なっ!?」
「ヒ、ヒー!!」
魔物がやられたことで、研究員たちは恐れのあまり部屋の隅に固まるようにして後退りを始める。
少しでもレラから距離を取りたいと、本能的に思っての行動だろう。
「し、敷島の者でも苦戦する魔物を……」
研究員の一人が呟いたように、今レラが倒した魔物は、敷島の者たちが集団で戦って倒せるレベルの強さを有している。
この場に武器がなかったために素手での戦闘になりはしたが、それだけで実力が落ちているという訳ではない。
それなのに、この目の前の女は一刀のもとに斬り殺した。
つまりは、敷島の者たちよりも実力が上だということになる。
また血に染まった薙刀を見て、研究員たちは全員恐怖で顔が真っ青に変わった。
「次はあなたたちね……」
魔物の血を飛ばすように、レラは薙刀を振る。
そして、その薙刀を研究員たちに向けて構えた。
「くっ!!」
「っと!!」
「ギャッ!!」
薙刀を向けてゆっくり近づいてくるレラ。
その恐怖に耐えきれなかったのか、1人の研究員が逃げ出そうと動き出す。
それを見逃す訳もなく、レラはすぐに回り込んで首を斬り飛ばした。
「「「「「っっっ!!」」」」」
「逃がすわけないでしょ?」
逃げ出そうとした仲間の結末に、他の研究員たちは驚きで声を失う。
度重なる恐怖により、もう悲鳴も上げられないようだ。
「た、助けてくれ!」
「我々ができることは何でもする!」
逃げることも出来なくなったと悟った何人かが、頭をこすりつける程の土下座をおこない、命乞いを始めた。
「…………」
「ギャッ!!」「グワッ!!」
その土下座を見ていたレラは、無言で薙刀を振るう。
何のためらいもなく、命乞いをする研究員を斬り殺した。
「散々人の命を弄んできて自分だけは助かろうなんて、考えが甘いんだよ!!」
怒りによって裏の顔が出てしまう。
彼らは命乞いをする人間に対し、何の反応も見せずに平然と薬物投与や人体実験を繰り返していた。
そんな事をしておいて、自分たちは何の罰もないと思っていたのだろうか。
もしもそう思っていたとしたら、どれだけ自分は特別な人間だと思っているのか。
せめて、潔く殺されてくれれば、自分も同じようになる覚悟をしていたのだと、苦しまずに殺してやるつもりだった。
しかし、あまりにも身勝手な彼らに、レラは怒りが抑えられなかった。
「……こうなったら!!」
「なっ!?」「何を!?」
逃げることも命乞いも無駄。
完全に追い詰められたことで、数人の研究員が動く。
仲間であるはずの研究員たちに注射を打ちまくったのだ。
「ガッ!!」「グッ!!」
注射の中身は、人間を生物兵器へと変化させる薬なのだろう。
本来の材料となる奴隷とは離れている。
それなら側に居る者を魔物にしてしまえば良いと判断したようだ。
「貴様ら!! 奴を殺れ!!」
「……最低のクズがいたようね」
魔物へと変化した仲間に対し命令をする。
自分が生き残るためなら、仲間の命すら利用する。
そんな最低のクズに、レラは薙刀を強く握りしめた。
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