第59話 愚者たち
「そんなぞろぞろと集まって何かようか?」
レラの訓練のためにダンジョンへと入った限たち。
目安となる階層が決まり、一旦地上の町へと戻ろうかと思っていたところで、限はずっと姿を隠してついてきた冒険者たちに対して用件を尋ねた。
限たちが魔物を倒した後を付いてきていたので、ほとんど魔物と遭遇することなくここまで来れたのだろう。
でないと、人数がいるとは言っても、彼ら程度の実力でたいした疲労や怪我もせずにここまで来れるとは思えない。
彼らのにやけた表情から何となく目的はうかがえるが、念のためという意味での問いだ。
「そこの女に目を付けてついてきたんだが、魔法使いと
器量好しなのでこれまでの旅でもちょっかいかけようとする人間はいたが、どうやら彼らの目的はレラのようだ。
それと、ここまで限は特に手を出さずに見ているだけで、その分従魔である白狼のアルバとと亀のニールがレラを援護していた。
それを覗き見ていたからか、レラの魔法使いは間違ていないが、どうやらこの冒険者たちは限のことをただの従魔使いだと勘違いしているようだ。
「しかし、ここまで来れたのはその魔法使いのお陰で、その魔法使いも魔力を消費して疲労している」
「……だから何だ?」
訓練のためにレラが主に魔物を倒していたのだが、彼らはレラが限たちの中で最大のアタッカーだと思っているようだ。
たしかに、レラはここまで来るのに魔力をかなり使っているので疲労している。
次に何を言って来るかも想像つくが、限はとりあえず問いかけてみた。
「その女と有り金置いて、お前と犬どもはさっさと失せろって事だよ!」
思た通りの答えが返ってくる。
「へへ……ビビッて何も言えないでいやがる」
「それにしてもいい女だな? そうそう手に入れられないぜ」
「あぁ、あとをついてきて正解だったな」
返ってきた答えに、限が表情を変えることなく黙っていると、人数に囲まれた恐怖で動けなくなっていると思ったようだ。
それに続く呟きも、どいつもこいつも品がないことこの上ない。
「ダンジョンでの暗殺は御法度じゃないのか?」
ダンジョン内に入る前に、係員からは注意事項が告げられている。
そのなかに、ダンジョン内での冒険者同士のいざこざは禁止するといった項目が存在していた。
それに同意したからこそ中に入れるというのに、これでは完全に規則違反だ。
「たしかにな。しかし、バレなけりゃ問題ないんだよ!」
「下層に行けば行くほど監視員も来れない無法地帯だ」
「ここで人か消えても、確認に来る頃にはダンジョンに吸収されているってもんだ」
「なるほど……ふざけた連中だ」
この者たちの態度と物言いに、限はなんとなく慣れのような物を感じる。
それにより、どうしてこのダンジョンの攻略が進まないのかがなんとなく理解できた。
少しは実力のありそうな者も見受けられるが、パーティー別に見てみるとたいしたことはない。
しかし、下層に来れるだけの実力がある者でも、この人数に囲まれればただでは済まないまない。
恐らくだが、この者たちは下層に入った冒険者に、同じようなことを繰り返してきたのだろう。
「へっ! 何も出来ねえ従魔使いが舐めた口きくじゃねえか」
「面倒だから殺して全部奪っちまおうぜ!」
「そうだな!」
いつまでも話していることに焦れてきたのか、彼らは武器を構えて限へと向けてきた。
先程レラとP金を置いて行くように言っていたが、どうせ最後は証拠隠滅のために皆殺しにするつもりだったのだろう。
「限様……」「グルッ?」「キュッ?」
「任せとけ」
「ハイ」「ワフッ!」「キュッ!」
今にも襲い掛かってきそうな冒険者たちに対し、レラはいつでも魔法で迎撃する体制に入り、従魔のアルバとニールは自分たちが相手をするべきか尋ねてきた。
こういった輩が気に入らない限は、自分が相手をする事を伝え、レラたちもその言葉に従い。限から数歩下がった。
「何だ? 従魔使いが1人で何か……ゴフッ!!」
レラたちが下がって限が近付いてきたため、冒険者の1人が問いかけようとした。
しかし、その問いが言い始めに限の姿が消え、言い終わる前に腹に拳が撃ち込まれた。
攻撃を受けた男はその1撃で気を失い、前のめりに倒れて動かなくなった。
「「「「「……へっ?」」」」」
あまりの一瞬のできごとに、冒険はたちは驚きのあまり思考が停止する。
「ギャッ!!」「グアッ!!」「ウゲッ!!」
止まっていようがいなかろうが、限には関係ない。
棒立ちになっている冒険者たちを、次々と殴って気を失わせていった。
「ウッ!!」「ガッ!!」
1人1発といった具合に、限は冒険者たちを動けなくしていく。
それにより、あっという間に半分が動かなくなった。
「ヒ、ヒィ!!」
あまりの強さに、冒険者のなかには恐怖を覚える者も現れた。
その恐怖に耐えられなかったのか、背を見せて走り出す者もいた。
「逃がすかよ」
「っ!! ギャッ!!」
当然逃がす訳もなく、限は逃げようとする冒険者の前へと回り込み蹴り飛ばした。
逃げることもできない冒険者たちは、その後も何も抵抗することなどできずに全員が限に叩きのめされたのだった。
「お見事です!」「ワウッ!」「キュ~!」
あっという間に全員を倒した限を褒めつつ、少し離れていたレラたちが近付いてきた。
「…………レラ」
「はい?」
限のあまりの手際の良さに嬉しそうにしているレラと違い、限は少し黙り考え事をする。
そして、何かを決意したかのようにレラへと視線を向けた。
急に話しかけられたため、レラは首を傾げる。
「こいつらを始末できるか?」
「……えっ?」
限は冒険者たちを痛めつけたが、誰も殺していない。
彼らは契約違反であるため、地上にいるギルド職員に渡せば冒険者として働くことはできなくなるだろう。
それに、もしも限が考えたように、これまでも同じようなことをしていれば、処刑か犯罪奴隷落ちもあり得る。
しかし、それをするよりも、レラのために利用できないか考えた。
その結果、限が考え出した答えはこれだった。
「お前はまだ人を殺したことが無いだろ? 敷島の連中や研究員と遭遇した時、躊躇なく始末できるか確認したい」
レラは自分に付いて来たいと言っている。
しかし、今の所自分は復讐を遂げることしか考えていないため、付いてくるとなると研究員や敷島の連中を相手にすることになる。
その時にきちんと止めを刺すことができなければ、反撃の機会を与えることになる。
レラのためにも、限はここで人殺しができるか確認しておきたかったのだ。
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