第193話 穏やかな魔力
全身に意識を向け、魔力で道筋をつくる。
拳は魔力の上をなぞり、きくのの魔力支配の影響から抜け出す。
今までよりもずっと速い。
そして今までと違って攻撃が出来ている。
最速には程遠くとも、組手の形が取れるだけ今までよりもずっとまし。
集中を切らさず、現状を維持して、今のこの状態に慣らしていく。
攻めるのはそれから…………そんなことを許してくれるほどきくのは優しくはない。
きくのは一歩踏み込んだ。
壁を相手に殴っているわけではない、当然動きもする。
ただそれだけだが、自分の意思の介在しない動きは意識を向けさせられる。
全神経を集中しなければ出来ない魔力支配を維持しながらの攻撃。
息を止めて身体を防御に向ける、その時だった。
こつんと何か小さなものがリンの腕にぶつかる。
攻撃のために肉体全体に、自身の魔力に意識を集中し、突然動いたきくのに集中力を乱されながらも魔力支配を維持し攻撃から防御へと転じてみせた。
しかし防御態勢をとったリンは動かず今までの修練の成果、慣れによって行い、意識は目の前のきくのに向けられる。
結果自分の身体に触れるまで近づいてきていることにスラリンは気付くことができなかった。
触れた瞬間、自身の意識が全て触れた部分に向くのを感じた。
意識の乱れ、魔力支配が崩れる。
魔力による防御がなくなれば、この魔力で満たされた空間に呑まれるだけ。
意識を保てず気絶するはずだった。
カチリとリンの中で何かがはまる。
リンの魔力の乱れが収まった。
「できると思った」
「魔力もまた肉体の一部。けれど精神が大きく影響するものでもある。大事なのは気合いだけど、気合の入れすぎでも乱れる」
「ちょうどいい塩梅を見つけなければ日常的に使うのは大変だからね」
きくの達のような天才は難しいことも簡単にこなす。
だからこそ伝え辛かった部分。
そしてこんな空間じゃ自分の意思で気を抜くなんてできない。
無意識にでも気を張ってしまう。
だからきくのは虚を突いた。
一点に集中した意識を分散させ、ちょうどいい塩梅を探させる。
「これなら、今までよりもずっと戦えそうです」
止めるのではなく巡らせる。
自身を襲う周囲の魔力を受け流す。
まるで不可視の鎧を纏うかのように。
「削り取る、イメージで」
突発的に起こる魔力の奪い合い。
リンの対魔術師用武術はまた一歩前進した。
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