第180話 最低限

「よーしそれじゃあクロイ大先生に頼まれちゃったしやるとするか」


「大先生って、年齢も知識も頭脳もお前が上だろ」


「…………そんなことはどうでもいいから聞き流して、さっさと集中して自身の魔力を全力で支配しろ。五秒後お前たちは死にかけるが、きっちり対応してみせろよ」


そうしてカウントダウンを始めた術廉みちかど

ゼロと同時に手をたたき、修練場の中は突如として水で満たされた。


《息が続くうちに対応しないと死ぬぞ》


わかり切ったことが頭の中に聞こえてきた。

何か反応をするだけの余裕はない。

身体の中の空気が切れたらもう終わり。

それどころか息が苦しくなってくれば魔力支配もできなくなる。

維持できるうちに対応策を考えなくてはならないが、空気を生み出す刻印も陣も知らない。

詠唱も知らないし、知っていたとしても水中では詠唱そのものができない。

無詠唱魔術は必要なことができるのではなく、出来ると知っていることしか出来ない。

空気を生むようなことはできるかどうかがわからなかった。

まず初めに行動したのはギフトとアルト。

どこまで続いているのかわからない修練場の空、この水の終わりもあるかもしれないと、グリモワールから出現させた剣を握りギフトは水の中を飛び、アルトは自身の到達できる限界点へ転移した。

二人が水のない場所を求めて移動したのを見ている間に、アストロは壁際へ移動して何も問題ないかのようにいつも通り周りの観察を始め、ガイストに至っては魔術の行使と同時に魔力も何も感知できなくなった。

イフは陣を描くとそこに自身の血を投げ込み、巨大な海洋生物を召還するとその口の中へと入っていった。

ルクスは自身の手をナイフで切りつけ流れ出る血で自身の周りに球体の空間を作り出し、内部の水を雷によって蒸発させた。

最後に残されたリンは目の前に陣を描くとそこへ残りの息を全部吐き切る。

空気はその陣を通り抜けるとその量を増やし、リンは空気の中で大きく息を吸い込んだ。

レージを見てから試行錯誤していた自分以外への強化魔術。

様々な行使の仕方を考えておいてよかったと改めて思った。

全員が各々の方法で生き残ったのを確認すると、修練場の水は消え、それと同時に先程までの対応の全てがまるでなかったことのように全員が術廉みちかどの前に並べられていた。


「息のできない状態で、俺の魔力によって作り出した魔力が乱れ漏れ出た状態では魔術の使えない水の中でよく魔術を使って生き残った。これからはレベルを上げて常に俺の魔力に埋もれた状態での修練だ。しばらくは何もしないがいずれその中で戦ってもらうからな」


ひとまずは合格をもらえたようで修練は次の段階へと進む。

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