第167話 魔眼の練習

「さ、魔眼を起動してごらん。何が見える?」


瞳に強化魔術を掛ける。

視界内の全てにピントが合い、脳に鋭い痛みを走らせる。


「文字が、リブさんの身体に刻まれた文字が見えます」


「それは見え過ぎだ」


リブはリンの視界を包み隠すように目に手で触れると魔眼の出力を調整する。


「これでどうかな」


「えっと、リブさんの身体、所々に魔力?が見えます」


「じゃあその出力を意識して。君は理を重んじているが、その実身体で覚える方が得意なようだからね。日常的にその出力で魔眼を行使し続けられるようになれば、君の不意を突けるのは圧倒的な格上くらいになる」


圧倒的な格上、つまりは不意を突く必要がないほどの力量差がある相手。


「リブさん。私はそんな圧倒的な格上に勝てるようになりたいんです」


「わかっている。けれど、格下に足元救われるような実力じゃそんなのはどだい不可能な話。まずは想定外への対処、初見殺しへの対策をしておく。それに、魔眼は一朝一夕で使いこなせる力じゃない」


神眼持ちに実力差は関係ない。

弱者たちもまた牙を磨いている。

強者を一刺しで仕留めるそんな毒牙を。


「わかり――――」


リンは突然力が抜けるように膝を落とした。

リンの視界をリブの手が覆い隠し、魔眼を停止させる。


「さて、一旦休憩にしようか。リン君は目を瞑ってしっかり休むように」


出力を下げたことで脳を突き刺すような痛みはなかった。

気付けなかっただけで魔眼による負担は大きく、ほんの一、二分で意識が保てなくなるほど。

リンは見誤っていた。

リブがあんまりにも簡単そうに扱うものだから、あれだけ特別扱いしていた神眼を正面から弾き返して見せるものだから、魔眼というものの圧倒的な力を、そしてその扱うことの難しさを理解できていなかった。

ほんの百秒ほど眼を開けているだけでこのありさま。

格上を見ていることなど今はできそうにない。


「ようやくわかったかい?魔眼とは、維持し続けることこそ難易度が高い。独学で無茶をするなんて真似は危険にもほどがあるからあの森を出てまで魔眼の使い方を教えに来たんだ」


リンを膝枕してやり、その目に優しく触れる。


「私が君に限界を超えさてあげる」

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