第146話 闘技大会第六ブロック
第六ブロックにはイフ。
ギフトの持つグリモワールは本来イフの家系が代々受け継いできたもの。
しかしイフが生まれるよりも先にギフトのもとに出現したために選ばれなかった子。
才能はあるがギフトには及ばないとそう言われてきた魔術師だった。
けれど学園対抗闘技会にて、イフは普通とは違った魔術師としての在り方を示す。
それはまるで、劣ってなどいないとそう言うようであった。
「大丈夫。大丈夫…………」
イフは壁に寄りかかり目を瞑り魔力支配を完璧なものにしていく。
呼吸は小さく自然なものへと、そして意識は深い深い海の底へと落ちていく。
開始の炎が上がると同時、イフはゆっくりと目を開いた。
拳を握り迫る者の、武器を持ち迫る者の動きが、ひどくゆっくりに見えた。
詠唱をする魔術師の、陣を描く魔術師の魔力の流れが、ひどくゆっくりに感じた。
薄く、薄く、誰にも気づかれないように。
広く、広く、埋め尽くすように。
「溟海」
イフの言葉と共に、闘技場を水が埋め尽くした。
あまりに薄い魔力に、誰も気づくことができなかった。
誰も気づくことができなかったから、誰も対策をとれなかった。
これは既に発動した魔術、変質した水を魔力支配や魔力操作で魔力へと戻すことはもうできない。
他の魔術を行使するしかなく、それを簡単にさせるイフではない。
《零界》
水は一瞬にして氷へと変わる。
出場者たちをまとめて氷漬けにする。
それはかつて領域とした魔術。
リンに破られ、クロイなどの出鱈目を知ったことによって効果は薄れたとはいえ、もとはイフが行使した魔術に干渉できなくなるというもの。
この氷は、ここにいるものでは到底抜けることのできないものであった。
完全に闘技場内を氷で埋め尽くしたイフは、自身の周囲に空間を広げて一人呟く。
「私は今まで、手に入れられたはずの
だからずっと氷を使って戦ってきた。
「けれどもうやめます。選ばれなかった者はもう、今日限り」
巨大な氷に手を触れる。
「アルト先輩。貴方こそ魔術師として理想の姿だとそう私は思います」
氷の全体に、隅々まで魔力を流し込む。
「私はいずれ貴方に追いつき、そして追い越す。私はギフト先輩の劣化でもなければ、アルト先輩の劣化でもないから」
巨大な氷に亀裂が走った。
「爆ぜよ‼」
氷はその内側から巨大な炎を上げて爆発した。
氷漬けにされた者たちの惨状など分かり切っている。
動けない状態で、何もできない状態で、爆発の中心にいたのだから。
立ち上がる者は誰もいない。
勝者のコールが告げるのはイフの名前。
件の刺客は氷から抜け出す方法を聞かされていたが、爆発の方が早く、そして防ぐだけの実力を持っていなかったために地に伏すこととなる。
対抗戦に出場した魔術師たちの実力は圧倒的。
敗北してなおその実力が本物であると、観衆の前でそう証明してみせた。
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