第145話 闘技大会第五ブロック

第五ブロックにはガイスト。

体育祭では選ばれた者ギフトを下しその名を知らしめた。

あれから既に三か月ほどの時が経っているが、ギフトを倒した魔術の情報が一切掴めていない。

不可視にして必殺の魔術に無策で突っ込むなど馬鹿のすることだ。

しかしこの国において命とは軽いものであり、一度二度死ぬ程度大したことではない。

いつか勝つ、そのために死ぬくらいどうってことはないのだ。

むしろ、死ぬまでの間に対策を思いつけばそれで勝てるとさえ思っている。

魔術には癖が出る、他の者達に観察される中ガイストは呟いた。


「最後じゃなくてよかった。僕じゃ皆を魅せられない」


勝利するのは当然のこと。

ガイストが見ているのは、予選の最後に相応しい戦いであるか、批判されない勝ち方かどうかだけ。


「皆さん、存分に僕を狙って下さい。今の僕には、それでも負けない実力がある」


落ち着いた様子で微笑む周りを挑発する少年。

もう自身の魔術に人格を乗っ取られることもない、扱い辛い才能に振り回されるだけの未熟な魔術師はもういない。

目を瞑り、開始の合図に神経を研ぎ澄ませる。

周囲の魔力を、開始の合図を行う魔術師の魔力を感知し、開始の炎が上がると同時に魔術を発動させた。


「これが僕の、幻術だ」


闘技場内は一瞬にして霧に包まれる。

視界は一切通らず、隣にいたはずの者さえ見ることは出来ない。

叫び声と共に誰かが倒れる音だけが聞こえてくる。

周囲を見回したところで霧しか見えず、武器を振ろうが、風を起こそうが、何をしたって霧は晴れない。

なにがなんだかわからないなか、突如として身体に痛みが奔った。

誰もいなかったはずなのに、接近を警戒していたはずなのに、胸にはナイフが突き刺さっている。

すぐに抜き、魔術による治療を始めようとするが、いくら力を入れてもナイフは抜けない。

それどころかさらに深く、大きな傷を作り上げる。

流れだす血、受けた致命傷は治すことができず、また一人、霧の中で倒れた。

長くとも五分程度、霧に包まれた闘技場の状況は観客たちには一切わからない。

しかしいつ変化するともわからないために霧を注視し続けていると音が鳴った。

金属同士がぶつかる音。

たった一度、たった一度の金属音を合図に霧は晴れた。


「まったく、手札はあんまり晒したくないんだけどな」


闘技場内には二人だけ。

他の出場者の姿はなかった。

ため息を吐くガイストが一歩踏み出しゆっくりと歩き近付いていくと、相手を囲むようにして闘技場内に複数のガイストが出現し同じように歩いていく。

すぐさま最初からいたガイストに短剣で斬りかかるが、手応えなく霧散した。

方向を変え向かってくるガイストたちを一人一人見つめ、咄嗟に背後の空間に斬りかかる。

今度は手応えあり、短剣に血も付いている。

何も無かったはずの空間から肩を押さえるガイストが出現し、そして消えた。

予想外の出来事に動き止まる相手の首元に刺さったナイフが出現する。

そこから続くようにしてナイフを握る手が、腕が、顔が、出現した。


「あの人たちも普通に騙されてくれればいいのに」


ガイストが最初から姿を隠していたのは当たっていた。

しかし幻術を暴く術を利用し、あたかもそこに隠れているかのようにその方法では暴けない幻覚を見せた。

最後の一人が倒れ、闘技場の幻術は完全に解ける。

最後の一人を除いて全員が無傷で倒れていた。

誰も彼も、刺された幻覚を、殺された幻覚を見て、本当に死んだのだと錯覚しただけであったのだ。


「普通はこうなるもんだよね」


倒れる出場者たちを見つめながら、ガイストは自分が戦っている者達の異常性に苦笑いをした。


「第五ブロック勝者、ガイスト‼」


勝者のコール、沸き立つ会場、ガイストは一人ため息を吐く。


「意思を希薄に、結局やり方わからなかったや」


気配を抑えるやり方はわかってきた。

しかしあの者達は気配が無くとも見つけ出してくる。

それを躱そうと考えてはいるものの、まだまだ道のりは長そうであった。

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