第126話 材料集め
「まずは海を探してこの世界にイカがいるかの確認だな」
クロイは宙に浮かぶと、海を探して一直線に音速を超えて飛んで行った。
辺りに衝撃を撒き散らし海の上で停止する。
「成程。入っちゃいけねぇっていう森の奥にあったのか」
振り返ると広がっている森。
そして斜めに斬られた塔にも似た城。
長い時放置されていながら未だ朽ちないその城は紛れもない、三千年前に滅ぼされた魔王の住んでいた城。
そしてその城を斜めに斬ったのは紛れもない、三千年前に勇者と魔王の運命を終わらせた最強の勇者ローラン。
「わかるぜ、これは見られたくねぇ。でもなぁ、そうやって隠して、全部一人でやってきたのがお前の間違いだろ」
踵を返しクロイは海の水を一気に引き寄せる。
抉るようにして海の一部を空中に浮かべると、太陽の光を通して中をのぞく。
そこには確かにイカがいた。
「イカ焼きは問題なく作れそ――――」
安心した瞬間を狙ってか、海の中から巨大な蛇のような生物が大口を開けて飛び出してきた。
そしてクロイが視線を向けた瞬間、飛び出した巨大生物は潰れるようにして空間に呑み込まれた。
「レヴィアタン?国民の行動範囲からは消し去っただけで、この世界そのものは未だに神秘が残ってるのか?」
海を見つめるがその全容は見えてこない。
何がいるのかはわからない。
「すぐ殺さずに強さを測っておけばよかった」
ギフトたちでも倒せるようなら彼らに狩りをさせようと思ったが、あれだけ手早く何もさせずに殺してしまえば、どちらの方が強いかなどわかるはずもない。
どれだけいるかはわからないが、もう姿を現してはくれそうにないと感じ、浮かべた海水を戻し、小麦を探して再び音速を超えて飛んで行く。
そして数分か数十分か彷徨って一つの村に着地した。
一つの畑に近付き作物を眺める。
「一応外国まで出張れば畑も小麦もあるのか」
…………小麦だよな?
さっきのイカもちゃんとイカなんだよな?
あのでかいのがいる中でも強く生きてきたイカ。
ホントに普通か?
まぁ収穫後の畑見ても小麦かどうかの判別なんざ素人の俺に出来る気はしないからそっちはどうしようもないが、イカはどうなんだ?
急にでかくなったりしねぇよな?
思考を巡らせ悩みながら、通りかかった人に畑の事を誰に聞けばいいのかを聞き、村長の家を教えてもらうと話をしに向かう。
話を聞く限りではパンなども作っているようで、おそらくは小麦で問題はなさそうである。
大丈夫だよな?
魔術での翻訳でも小麦ってそう聞こえるし。
該当しそうになかったら向こうの言語で聞こえるもんな。
翻訳しないのは名前だけとかじゃない限りこれは小麦だ、間違いない。
「村長殿、どうか小麦を一本頂けないでしょうか」
深く頭を下げお願いするが、どうも誠意が伝わっているようには感じない。
文化の違いか?
それとも思ったよりまずいこと言ったか?
「対価は?」
村長の老いて掠れた声に顔を上げしばし思考する。
「木はどうでしょう。あって困るものではないのでは?」
「成程。こちらの利が大きすぎる気もするが、そちらが他に払えるものがないというのなら喜んで受け取ろう。しかし、渡す量を増やすことはできない」
「ええ、わかっています。人を生かす食料と、物を作る木ではその価値に差が生じるのは当然の事かと」
顔を上げると家を出て木を切りに行く。
数分と経たずに帰ってくると、外には倒れた木が一本。
「どうかこれで」
「…………持っていけ」
「ありがとうございます」
もう一度頭を下げる、案内された倉庫で小麦を一本手に取ると森に入り誰も見ていないことを確認し飛び立った。
「よし、あとで一応調べはするが、これでイカと小麦ゲット。次は砂糖、サトウキビだ」
しかしこの世界にサトウキビも、テンサイも見つからなかった。
学園に着地し修練場に入る。
そのまま地面に倒れ込むと、大きなため息を吐いた。
「これじゃ砂糖作れねぇじゃん」
「どうしたんですか?」
心配そうに顔を覗き込んできたのはイフ。
「……ん…………ん、マジ?」
いるのか?
それともあるのか?
砂糖を作ることが出来る植物か生物が。
「もう無理。面倒過ぎ」
クロイは立ち上がると修練場の門に手を触れため息を吐き、へたり込んでもう一度溜息を吐き、仕方ないと呟いて立ち上がり出て行った。
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