第119話 選ばれた者とその弟

「兄さん、これどういう状況…………?」


授業の最中に突然呼び出され来てみれば、誰もが知るこの学園の頂点に立つ者達、そして、共に戦った仲間が、その時敵だった者が、全く知らない者が、一堂に会して修練をしていた。


「この間の闘技会で、ボロボロに負けたろ?次こそ勝つって修練してるんだ」


「そうなくて、もっとほら、闘技会で戦った相手がいたりとか、そもそも僕が何で呼ばれたのかとかもよくわからないんだけど」


「なんで呼ばれたかで言えば、魔力をすぐに回復できれば効率よく修練が出来るだろ?そういうことだ」


吐き出す機会もなくただひたすらに溜め込み続けた魔力が役に立つ時が来た。


「けど、それって僕じゃなくても」


「その考え方はやめとけ。馬鹿らしいぞ」


到着に気付いたクロイが二人の元まで飛んでくる。


「世界を救った奴も、世界を救えるのなら他の誰かが救ってもよかったんだ。何もかもそうなんだから、そんな考え方するのは馬鹿らしいぞ。それに少なくとも、お前に匹敵する魔力を持つ者は、この学園にはノアくらいだ」


棘のある励ましの言葉。

相手が相手なだけにどうにも納得いかなかった。


「ギフト、お前はそいつに魔力支配を覚えさせとけ」


「な、まだ体術が全然」


「兄ちゃんだろ?」


「…………そういうことなら、ええ、わかりました」


兄という言葉で攻められては、兄らしいことをあまりできていなかったギフトとしては退くに退けない。

ここでお兄ちゃんポイントを稼いでおけとでも言われているように感じた。


「ナル、楽な姿勢で座って」


まだ理解しきれていない様子のナルを座らせ、ギフト自身も隣に座る。


「手を繋いで、目を瞑る」


触れた瞬間にびくっと身体を震わせたナルの手を握り、喧噪の中で目を瞑り暗闇の中へと落ちていく。


「呼吸を整えて、自分の内側へと目を向ける。身体を巡る魔力を認識する」


つないだ手から、ギフトの魔力が流れてくる。

身体中を巡って、自分の魔力がどこを巡っているのかを、どれだけあるのかを教えてくれる。

周りから魔力タンクと称された自分の、ずっとずっと扱えずいた魔力を、ようやく自分のものとして感じることが出来た。


「兄さん。ひとりは寂しかったよ」


「置いて行って、悪かった」


グリモワールを手にしたあの日、兄は天才として先を往くことを余儀なくされた。

そして魔力が膨大過ぎたが故に扱うことの出来なかった弟は、落ちこぼれとして一人取り残された。


「もう僕は、置いてかれないよ」


「今度こそ、共に歩もう。兄弟として」


今はまだギフトと手を繋いでいなくては出来ないが、それでもあれだけ膨大な魔力が突然完全に支配され統制が取れれば、周囲のものは嫌でも気づく。

一斉に集まる視線を意に介せず、ナルは自身の内を巡る魔力の支配を続ける。

魔力支配によってもたらされるのは魔力の回復を早めるというものもある。

膨大な魔力が高速で回復し、無限とも思える魔力を手に入れるのも、そう遠い話ではないのかもしれない。

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