第84話 新たな魔術

「出来た」


「ほう、どんなだ?」


「……………」


アルトの魔力が放出される。

想像以上の魔力量。

咄嗟に空間を叩き陣を展開し結界を張った。


「………天気雨・乱」


室内にも拘らず雨が降り出す。

雨は風もなく薙ぐように高速で回転し始め辺りを攻撃する。


「成程、雨粒で攻撃か。確かに水の破壊力は計り知れないが……もっと自由にだ。お前はまだ、縛られている」


「炎は、水は、何処から来た?」


「………ああ、そうか」


回転は止まり雨は止んだ。


魔術によって生み出したそれは魔力だろう。

アーテルはもれなく全てを奪い取ったのだから。

先程の雨もまた然り、雨を降らせ攻撃する魔術。

それでは駄目だ、一つではなく別々に。

雨である必要がまずない、水であればそれでいい。

なら…………………出来るのか?

詠唱は?

道楽、何故出来たかで言えばなんとなくだ。

同じ魔術の詠唱でも本によって祭が存在する。

つまりは細かい詠唱が違えど同じ魔術は発動させられるということであり、あの短い詠唱もまた魔術の操作を放棄して成り立たせたと思っていただけで、魔術の操作も可能なのでは?

魔術の本質は心。

出来るとも、道楽を私は可能とした。

天気雨もまた短い詠唱で発動を可能とした。

なら……。


「…………変質・水」


アルトの上空に大量の水で出来た球体が現れた。


「あ、まずい」


水はそのまま落下しその場にいた全員をずぶ濡れにした。


「眼を閉じよ」


ノアが空間を叩き五つの陣を描くと、四方八方から勢いよく温かな風が吹いた。


「どうやら、掴めたようだな」


「はい……」


アルトは自身の手を見つめる。

自身の内を巡る魔力を見つめる。

周囲を流れる魔力を感じる。

魔術の核心にようやく一歩近づいた気がした。


「操作を考えていませんでした。ただ、やり方は多分知っています」


魔術によって地面の形を変える、操作する際と似通った感覚で問題はないはず。

そして何より魔力支配だ。

全てを知るが如き万能感。

落ちる水を、流れる水を感じ取れていた。

今なら、アーテルのような魔力支配も出来る気がしてくるほどに。


「変質・雷」


今にも周囲を焼きかねない激しい雷を宙に出現させる。

暴れ狂う雷、しかし一定の範囲から外へは決して出て行かない。

意識を集中させ雷を移動させる

修練場内をぐるりと一周。

そして自身の真上で停止させると、余裕がないながらも笑みを浮かべた。


「耐えてみてください、学園長」


「はっ、やってみよ」


雷が奔る。

ノアに正面から雷をぶつけた。

当然の如く防ぐノア、しかし雷はノアの背後に周しもう一度ぶつける。

難無く防ぎ呟いた。


「成程」


結界の外、雷のその先にいるアルトに微笑む。


「魔力を変質させたものなら、魔力を操るように操作できてもおかしくはない。そして、防がれても管理できていれば霧散することもない。魔力を操作しているだけだから魔力の消費もない。素晴らしい」


結界の内で手を叩く。


「だが、対策がないわけではない」


結界を解くと、向かって来る雷に杖をぶつける。

雷は消失し、魔力は霧散した。


「距離が遠くなれば魔力支配の難易度は上がる。相手にぶつける以上は魔力との距離は相手の方が近い。支配権を奪われる可能性もあることは理解しておけ……さて」


杖を地面に突き立てる。

修練場内広がる威圧感。


「魔力支配、どこまで出来るか試してみよう」


「さ、頑張れ頑張れ」


魔術にノアの分野だからと参加してこなかったウィルが輪の中へと入ってくる。

皆に見えるよう、皆に感じられるよう、わかりやすく魔力を完全に支配した状態で。

全員が見本をもとに自分の内の魔力を統制し支配する。

流れを掴み、自分の意のままに。

しかし、生半可なものでは足りない。

次々とノアに魔力を奪われていく。

残ったのはアストロとアルトだけ。

その二人もまた、周りの息遣いにペースを乱され魔力を奪われた。

アルトは疲労から地面にあおむけで倒れる。


「……魔力支配は体の内と外で難易度が大幅に変わる。距離が離れればさらに難易度はさらに上がり、他人の魔力となると難易度が跳ね上がる。私はまだ、貴方方を侮っていたようだ」


距離の優位性があったとはいえ、いともたやすく雷の魔力を奪い取った時点でなんとなく気付いていたが、魔力支配の練度が段違いであった。


「はは、正直だな」


「では、ここからは儂の番だ」


ウィルが前へ出る。


「……剣」


空中に作りだされる剣を握る。


「儂が一言で出せるのは剣だけだが、魔力の万能性、魔術の可能性には気が付いたことだろう。ここからは、戦いの時間だ」

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