第76話 アーテルの居所
「そっちはどんな様子だ?」
修練場の扉を開け中へと入ってくるルクスがアルトに声をかける。
首を振ると、地面に座り虚空を見つめるアストロを指差した。
「ここ数日ずっとああしてアーテルを探していますが、見つけられずいるようです」
アストロに近付くと、その目を手で覆った。
「何が見えてるかは知らないが、もういい。同じ場所を探したって意味はない」
手を払い除け顔を上げる。
「見つからなかったけど、何度見ようとしても見えない場所があった」
「なっ、てことはその見えない場所にアーテルがいるんじゃ」
「……少なくとも、壁にも結界にも阻まれない眼ですら阻まれるような結界か何かを使える相手が隠したがっているものがそこにあるのは確かでしょうね」
一瞬の静寂、破ったのはルクス。
学園長に報告して来ると言って修練場を飛び出した。
「それで、見えない場所というのは何処なんだ?」
「………お城と……森」
「城はわかるとして、森というのは?」
王城はただそこにあるだけで、時折学園長たち二人が出入りするだけで他の誰の出入りもない場所。
そこには存在すらも疑われるこの国の王がいると言われている。
そして森は、国土の半分以上を占める未開の地。
親が子供を叱る際に、悪い子は魔物が連れ去ってしまうと脅かしたりもしているが、実際に魔物が出たという話はない。
そもそも未開の地である。
探索をしようにも、似たような場所をぐるぐると歩き回るせいですぐに迷ってしまう上に、あまりに広大で帰ることすらままならない。
実際に森の中を探索した者がいたという話を聞いたことはないが、遺跡がある、竜がいる、果てには国の実験場などという具合に噂話だけは絶えず語られ続けている。
問題はただ一つ。
広すぎて、とてもじゃないが探しきれないということだ。
「森の中に、見えない場所がいくつかあった」
「………位置はわかるのか?」
「うん、わかる」
なら問題はない。
森の外から一直線に進んだとしても目的地にたどり着けるのなら、何も問題はない。
野宿という可能性は無くはないがさしたる障害ではない。
「それはよかった。じゃあ行こうか」
「行くってどこに?」
アルトはアストロを立たせるが、アストロの方は首を傾げた。
「そろそろだと思うんだよ。まぁ、アーテルは生意気だけど、存外好かれてるって話だ」
アルトが微笑みながら答えてすぐに修練場の扉が開きルクスが部屋に入ってきた。
「学園長から生徒会に召集がかかった。行くぞ」
三人は早足で呼び出された部屋へ向かう。
部屋に入ると、既に学園長、ガイスト、イージス、リン、ギフト、そしてイフが机を囲むようにして座っていた。
「来て早々で悪いが、見たもの、いや見えなかったものについて話してもらえるか?」
「………王様のお城が見えなかった」
しばしの沈黙の中で学園長は思考をまとめる。
「………それは飛ばしてくれて構わない。他を探して見つからないようなら探す場所として考えておいてくれ」
「後は森だけど。見えない場所はたぶん七か所だと思う」
「森か…………位置の特定はできているのか?」
「何処が見えてないのかはわかってる。ただ、一か所だけ見えない範囲が広くて、結局その中を歩き回ることになるかも」
「ふむ、まぁ行ってみないことには始まらないな」
学園長は席を立ち扉を開ける。
「森へ入る日を決めておけ」
「学園長は参加しないのですか?」
「なるべく早く行きたいのだろう?儂が学園にいなくても問題がないよう調整をしてくるから決めておけ」
日程はそちらに合わせると学園長はそう伝えると部屋を出て行った。
「一応俺ら生徒会で、この学園最強の魔術師集団なわけで、授業や課題に問題はないからさっさと行きたいとこなんだが………」
「学園長がいない状況で動けばそれはもう怒られるでしょうね」
「何せ監視の目を止めてまで私たちについて来ようというのですから」
「………それほどの相手、ということですか」
事前に話は聞いていたが、アストロが積極的に話をし、学園長が予定の調整を始めたことでようやく現実感が沸いてきた。
「アーテルは強い。そのアーテルを誘拐するような相手、僕らじゃどうしようもない」
「一応探すだけだが、敵と遭遇する可能性もある。敵の実力が未知数な以上は学園長、蘇生魔術という最終手段はあった方がいい」
これから行く先は修練場でも闘技場でもない。
死ねばそこで本当に終わってしまう。
そんな場所で、圧倒的に格上の相手と殺し合わなければならない。
「二日………いや三日だ」
アルトが独り言のように呟いた。
「早く探しに行きたいところだが、ここにいる八人で連携が取れるようにならなきゃ最低限にすら届かない。三日だ、三日で連携を完成させる」
それでようやく相手の気分次第では生き残れる可能性が生まれる程度。
だが、傲慢にも何もせずにいられるほど、自分たちが絶対的な強者ではないことをここにいる者達は理解していた。
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