第68話 ガイストvsリン
「ギフトに勝つとは驚いた。今まで実力を隠していたのか?」
「僕は対策を立てられたらもう何も出来ないから、絶対に勝ちたい戦いでしか全力を出さないだけですよ」
「偏った才能は扱いに困るな」
「まったくです」
学園一の精神系魔術師と、学園一の肉体派魔術師は微笑み合う。
その眼の奥では笑わずに。
炎が上がり戦いが始まる。
ガイストはすぐさま手カメラを作り、リンを捉えようとする。
だがリンはガイストの魔術を多少なりとも知っている。
手カメラの内へ入らないよう、入ったとしても魔術を行使するよりも早く抜け出すよう全力で内周を駆ける。
近付いてくるリンを前に、ガイストは手カメラを縦から横に変える。
「額縁は広がり、世界を描いた絵すらその内に収める」
ぞくりと、背筋が凍る感覚。
背後まで回り込んだ。
こちらを向いてはいない、そのはずなのに見られていると感じた。
地を蹴りその場を離れるもすでに遅い、否、もはや逃げ場はない。
「一枚絵」
その場から動けなくなる。
止められたのではなく、止まろうとしていないにもかかわらず、自分の意思で止まったような矛盾した不思議な感覚。
目に写る情報は処理され続けているというのに、その情報を知覚できない。
時間が止まっているわけではないことを理解しながら、時間が止まっていると感じている。
止められた、止まっている、尚も思考は続く。
答えが出ない。
答えは出ている。
答えは認識できず、終わりがない。
動かない身体に反比例するように深く深く思考の海へと沈んでいく。
動き続ける脳と止まった心。
あるかどうかすらわからない不確かな心を縛られた瞬間に、リンの身体は矛盾を孕み、動く事すら、思考を終わらせることすら出来なくなる。
「リン先輩。あなたと僕では相性があまりに悪い」
手カメラを解き、背後で止まっているリンを見る。
ガイストの魔術は、作った手カメラの内に陣に近しい特性を持つ見えない術式を作り上げることで発動させている。
手カメラは額縁であり、額縁の中に絵を収めるということを模倣することで、魔術を発動しやすくする。
それはある種の儀式であり、この国では、この世界では生まれなかった魔術体系。
五十年に一度ほど、そういった、この世界に存在しない魔術に辿り着く者が現れる。
彼らは知らないままに扱うために天才足りえないが、もしも自身の魔術が如何な技術によってなされているか、それを理解し扱う者こそが天才である。
ただの偶然だけでは、天才にはなりえない。
ガイストは天才ではない。
けれど、見えないところで努力を続ける者である。
そして努力は実を結ぶ。
手カメラという陣魔術。
模倣を続けた儀式魔術。
そして、手カメラの外へと額縁を広げた詠唱魔術。
陣魔術を儀式魔術と詠唱魔術で強化するという、比較的難易度の低い形をとっているものの、これは紛れもない複合魔術であり、小さな一つの陣と、工程の少ない儀式と、短い詠唱だけで、これほどの魔術を成り立たせていた。
「僕の魔術は、意思を、心を止める。けれど思考は止められない、肉体は止められない。だから動ける人は動けてしまう。意思無くして動く、人形のような人なんて、そうそういないとは思うけど」
勝ちを確信してか、ガイストは話をする。
「範囲を限定することによって魔術の効果を上げているから心を完璧に止められる。今回は範囲を広げたから、効果が落ちてしまった。こうしてリン先輩を止められたのは、リン先輩が根性、心頼りな人だったからです」
種明かし。
敗北要因を相手へと伝える、勝者の行動。
だが、勝負は終わっていない。
「………誰が考え無しのバカだ‼私は理知的だ‼」
止まっていたはずのリンが突然動き、ガイストを殴った。
リンの、強化魔術の掛かったリンの拳を受けながら、ガイストは平然としている。
「僕は心を支配する魔術師だ。心の機微にはすぐに気づく。止められる直前、こうして体を動かすために魔術を仕掛けたことも知っていた」
領域・心理掌握。
それはガイストが本来の領域である真理掌握を隠す目的で使っている魔術。
それは相手の心を読み取るという効果も存在する。
「あれだけ言ったんです。文句くらいは言いたいだろうと思って放置していただけですよ。もう、勝負は終わっていますから」
近付いてくるリンの身体から、何かが飛び出す。
それは鋭く尖った刃物のようで、リンの身体を内側から切り裂いた。
左腕が斬り落とされ、右足が斬り落とされ、地面に倒れる。
「ギフトが言っていました、心を形にすることこそ魔術の完成形だと。それってとても、僕に似合っていますよね」
精神系魔術師は相手の相手を意のままに操る。
だがガイストは、心に物理的な形を与え、形を変え、心の持ち主を攻撃した。
「そうだ、最後だし言っておきます。僕、未来が見えるんです」
リンの意識はそこで終わった。
「勝者………ガイスト‼」
精神魔術頼りであるがために、具体的な対策が出来ないよう隠し続けてきた魔術を使うガイストは、対策なしで戦うなど魔防ともいえるほどに強かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます