第39話 順番
二戦目三戦目とアーテルは順調に勝ち進んでいった。
アーテルが予期した通り、上に行けば行くほど力によるごり押しが目立った。
しかし五戦目、千人いた一年次も残り六十人ほどとなってくると相手もしっかり策を練って行動して来る。
だが、アーテルにとってはむしろ、勝つのが容易になっていた。
策を練った分、行動の一つ一つに意味が生まれてくる。
その意味は次の行動にもつながってくる。
最初の行動を見ただけで、そこから続くすべての行動を読み切っていた。
修練によって魔力の奪取が以前よりもずっと早くなっているアーテルは、相手が魔術を行使したことを確認した後に行動しても問題なく対処できるのだから、勝利することが容易なのは当然の事だった。
そして出場する八人を決める最後の戦いが始まる。
成程幻覚か。
何よりも先に幻覚によって相手の感覚を狂わせる。
本来は速攻を仕掛けた方がいいが、諸劇を防がれた瞬間そこから先を掌の上で踊らされるよりはましか。
まぁ、全てを見通す眼なのだから、幻覚程度どうということは無い。
先は読めぬが、今ならば見えている。
アーテルは幻覚に混ざる本体に距離を詰め、相手の胸を打とうとした。
だが、ほんの一瞬停止すると、最初から少ない魔力を先とは逆の右手に纏い相手の胸を打った。
幻覚が解け相手が数メートル吹っ飛ぶ。
地面に落下したとき、血を吐き気絶していた。
殺せはしなかったか。
戦いの前から服の内側に金属板を入れていたか。
それも随分と分厚いものを。
透視も出来るが俺はしなかった。
だから魔術とは関係なしに用意された金属板に気付けなかった。
金属板で一撃耐え、反撃の一撃で倒すつもりだったのだろうな。
まぁ、気付いた以上は一撃で倒すとも。
今後は透視と過剰な攻撃を意識しておくか。
この者が、予選においてアーテルに唯一傷を付けた者であった。
そして、この戦いによってこの先のアーテルの戦い方はより苛烈になっていく。
………………成程。
誰が出るかは決まった。
次は順番。
誰と何番目に戦うかを決めるのか。
アーテルは予選が終わったものと思いアストロを相手に修練を再開していた。
だがまだ終わっていなかったために第一修練場へ戻る事となる。
第一修練場に入ると、既にほかの七人が揃っていた。
…………当然だがトーカも残っているわけか。
今回は学園長までここにいる。
成程、同時に戦闘が行えるよう学園長の魔術で空間を広げたのか。
これで連続七戦、面倒だな。
八人が、指定された位置に立つ。
正面には対戦相手。
全員同時、開始の合図が鳴り響く。
……隠し持っているものは何もない。
ならば魔術による戦闘だが……属性は雷か。
……ん?
待て待て待て待て、確かに属性は雷だが、これは肉体強化、それも……。
相手が一気に距離を詰め、アーテルに強烈な一撃を放った。
それは魔術でもなんでもない、ただの拳。
雷属性の肉体強化、それを脳にまで施すことで、理性と共に肉体の制限を無くす。
雷属性の強化魔術は特に効果が高い。
速度も力も上がる。
だが、速すぎるために簡単には使いこなせない。
だからって、使いこなせないなら使いこなせないまま、暴走の方向で特化させたりするものじゃない。
まぁ確かに、その速さに対処できる者はそう多くはいないだろう。
だが、その暴走は、周りに対処できるような奴がいないと止まらない。
欠陥だらけだ。
そして何より…………リン先輩の方がずっと速い。
アーテルは当然の如く相手の攻撃を避けきり、相手の胸を力強く打った。
骨の折れる音、口から吐き出す血。
相手はそのまま地に伏した。
自分の意思で理性を取り戻せるようにならなければ、さらに言えば、制限を無くした状態の肉体を御せるようにならなければ、ただ力任せなだけで進歩が無い。
学園長の狙いは、俺とトーカに、学年順位の低い俺達に、他の六人が慢心しないよう負かせということだろう。
まったく、本当に面倒なことをさせる。
二戦目三戦目と、アーテルは圧勝を続ける。
力の差を見せつける様な完膚なきまでの勝利。
そして総当たりの第七戦。
対戦相手は、学年順位第九位。
あと一つ上であれば皆に憧れの眼差しで見られた名も無き者か。
こいつこそ自分が劣っていることをよく理解しているだろう。
はぁ、少し申し訳ないな。
だが、勝てと言われた以上は勝たねばならない。
始まりの合図と共に、詠唱を始める。
魔力量、それなりに多い。
詠唱の速度も申し分ない。
刻印魔術もよく考えられている。
属性は自らの派生で氷か。
これは……まだわからない、まだわからない。
だが…………。
相手の魔術によって地面が凍る。
そして、空気中の水分が凍っていく。
やはりか。
やはり彼は、イフの下位互換だ。
それも、第九位程度の。
魔術に耐性の無い者であれば近付いただけで凍る。
それくらいの実力がなければ、今よりは上がれない。
それに、イフならば魔力支配の出来ぬ者、炎属性の使い手、そして、自身以上の魔術師以外ならば張った結界など無視して凍らせられる。
確かに、学年全体で見ればなかなかのレベルだ。
それでも飛ばした水滴が凍る程度じゃ魔術師としてまだまだだ。
それに、学年順位四五六位は炎属性、あまりに分が悪い。
詠唱魔術は問題にならない、次は刻印魔術だが。
相手の右腕が光る。
それは腕一本を使うほどに長い刻印魔術。
……電撃と火焔の合成魔術か。
刻印された魔術を完全に解いたアーテルは、感心していた。
先に氷のフィールドを作り出し、炎で溶かし電撃で感電させる。
それでもダメなら最後には物理で殺すわけか。
放たれた白光する魔術はその内側に鉄球が入っており、電撃を浴びた相手に向かい追尾するよう魔術が掛けられていた。
錬金術に近い術式、素晴らしい、実に勤勉だ。
だが、この程度アーテルだってしている。
越えない限りは名も無き者のままだ。
アーテルは電撃を浴び、尚も平然と迫りくる鉄球に触れると同時、鉄球に掛けられた魔術を解き、相手に向かい吹き飛ばした。
とてつもない速度で迫る鉄球を防ごうと結界を張るが、そも結界とは魔術への対策である。
アーテルのようなものが放った鉄球を子供の魔術師見習い程度が防げるはずもなかった。
そのまま鉄球に打たれ気絶した。
さて、これで終わりだが……。
「では次に、アーテル対トーカ」
矢張りか。
一番嫌な相手が一番最後に残った。
俺を勝たせてくれる、そういう雰囲気ではないな。
なら、真面目にトーカという面倒な相手を正面から倒さなければならないわけか。
アーテルは、呼吸を整え、もっとも戦いたくない一年次を相手に戦闘を始める。
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