第10話 収束
戦いの勝者はイフ達となった。
死者は千人を優に超えたが、学園長の魔術により、死の瞬間の記憶を抜かれ蘇った。
アンダー達からの謝罪もあり、事態は完全に収束した。
アーテルたちの孤立という形で。
まぁ、そうなるよな。
自分を殺した相手に近付こうと思う方がおかしい。
教室の席に座り、つまらなそうに外を眺める。
そんな時だった、教室にずかずかと乗り込んできて、男が大声で呼びかけてきたのは。
「おいアーテル、修練場行こうぜ」
声の主は、先日戦い勝利した、学園六位ルクスであった。
「断る。俺はこれから行くところがある」
「ふーん。それじゃあ俺も付いてく」
アーテルは人に道を空けられながら廊下を歩いて行った。
「おや、遅かったね」
「悪い、変なのに捕まった」
「よっ」
目を丸くするイフ、ため息を漏らすアーテル、笑って挨拶をするルクス。
三者三様の表情に、ナルは笑い出す。
「ハハハッ、可笑しいんだから。それでルクスさん、今日は何の用でこちらに?」
「いやぁ、俺はアーテルと戦いたかったんだが、用があるとか言って逃げるもんだから、追いかけてきただけだ。にしても、こんな端の空き教室に集まって何する気だ?」
「あぁそれは、学園一位のギフトに勝利するためここで作戦会議をしているんです」
ようやく行動の読めないルクスという人物について呑み込めたイフが説明する。
「へぇ、じゃあ俺も仲間に入れてくれよ」
「は?なんでまた」
「戦力は多いに越したことないだろ」
「先輩のメリットは?」
「アーテルと長く一緒に居られるから、アーテルと戦う機会に巡り合える可能性が増えるだろ」
「……イフ、この人敵だ」
戦うためには傍に居るのが一番と、タイミングさえあれば裏切ると言うルクスに、もはやアーテルは呆れていた。
だが、イフは違った。
イフはこの数日の間に、アーテルの性格をなんとなくだがわかってきたような気がしていた。
アーテルにとって死は身近なものであり、死なない努力こそすれど、それでも死んでしまったのなら仕方ないと割り切れる程度のものである。
ルクスのことは詳しくはわからない。
だが、結局蘇るのなら、死ぬくらい大したことじゃない、そう考え行動しているのは確かだった。
それは、この学園内、学園長の管理下にある状態ならば、生への執着が殆どない。
なら、ルクスが仲間に加わった場合メリットの方が多い。
デメリットがあると言っても、せいぜいアーテルの心労くらいなものだ。
「そうですね。では、ルクス先輩……貴方も今から我々の仲間です」
イフは笑顔でルクスを迎え入れた。
「な……イフ、気でも狂ったのか⁉この人は俺と戦おうとしてるんだぞ」
「アーテル、ルクス先輩が戦おうとしているのは君だけであって、我々とではないんだよ」
「裏切ったな」
「まぁ、待ちたまえ」
笑顔でアーテルと話した後、スッと真顔に戻ると、ルクスと話し始める。
「先輩。貴方はアーテルとの戦いの機会を求めて我々の仲間になろうとしているのですよね?」
「あぁ、そうだ」
「ただ、仲間になったからといって、必ずアーテルと戦えるわけではありません」
「わかってる。俺は、こいつと戦える可能性が増えると思ってここにいる。必ず戦えるとは思ってねぇよ。それと、こいつと戦えないからといって、裏切ることはないから安心しろ」
「そうですか。では最後に、我々はどちらにも協力しません。先輩がアーテルと戦うのにも、アーテルが先輩から逃げるのにも、我々は協力しません。それで構いませんね?」
「あぁ、それでいいぜ。これは俺とこいつの話だからな」
ルクスは満足そうに笑い手を差し出す。
「それじゃ、これからよろしくな」
「えぇ、こちらこそよろしくお願いします」
ルクスとイフは当事者であるアーテルを他所に握手を交わした。
「話は終わったみたいなので、兄さんとの戦い方について考えましょうか」
ナルはそう言うと、せかせかとイスとお茶の用意を始めた。
「さて、俺はお前らに敗けたが、これでも学園六位でな、情報なら結構あるぜ」
「……なぁ、前から気になっていたんだが、その順位はなんなんだ?」
アーテルは、聞く機会もなかったために放置していた学園の制度を質問した。
「んじゃ、説明しとくか」
紅茶を飲み、乾いた唇を濡らす。
「まずは学年順位だが、これについては簡単だ、そのまま成績順だ。もちろん実技と筆記を合わせての成績だ。筆記だけなら一位のアーテルが最下位に居るのは、実技がほぼ零点だからだ」
「何で知ってる」
「そこも説明する」
一同の視線がアーテルに集まる様を楽しみながら続きを話す。
「さっき言った通り学年順位は総合成績だが、学園順位は魔術師としての順位だ。習っていようとなかろうと、どれだけ魔術を扱えるかが重要だ。詠唱だろうと、陣だろうと、刻印だろうとな」
一度茶菓子を食べ続きを話す。
「さて、魔術師としての実力が重要だと俺は言ったな。だが、それ以上に重要なものがある。それは……戦闘能力だ。この国にとっての魔術師は、軍事力という面が大きい。まぁ、ここ数十年他国との戦争なんざしてないが、魔獣の討伐はよくあることで、人手が多いに越したことはない」
魔獣なんか生息していたか?
生前も俺は出会ったことが無いんだが。
いや待てよ、前に王様が言ってた気がする。
この国は神の身勝手で世界が消去される際に、王様が無理やり別の世界へ転移させたって。
だったら、俺が生まれた世界に浜住はおらずとも、元の世界である此処になら、魔獣がいてもおかしくはない。
というか、この世界に魔獣だとかが存在していなかったら、ローランの友人である竜の説明がつかない。
なら、やはり魔獣は存在するのだろうな。
「そしてその順位は、学園長の独断と偏見によって決められる」
「独断と偏見って、まともな順位になるとは思えないんですが」
レージの意見はもっともだ。
だが……。
「この学園の学園長が誰かを解っているか?」
「さぁ、不老不死に到達した魔術師で、死者蘇生すら可能にする魔術を作り出した。それくらいしか情報は無いはずですが」
「あぁ、そしてさらに掘り下げれば、神殺しと勇者の友人にして、その子供である賢者と最後の勇者の育ての親。宮廷魔術師でありこの国たった二人の兵士。その実力は今を生きる魔術師の中で最強とされている。さて、最強の魔術師の評価に間違いはほぼないと言ってもいいだろう。それこそ、アーテルのような変な魔術師でもない限りは順位は完ぺきと言っていい」
「……それだけ並べられれば文句はありません」
レージは両手を上げると、降参といわんばかりに背もたれに体重をあずけた。
「何処まで話したっけか……あぁそうだ、学園順位が魔術師としての実力以上に戦闘能力が重要だという話だったな。わかりやすい例を挙げるとギフトだな。あいつはグリモワールがあるからこその一位だ。グリモワールが無ければ学園四位が良いとこだろう」
「グリモワールさえなければ大したことないということですか?」
その質問に、ルクスは腹を抱えて大笑いした。
「学園六位の俺に勝てたからそう思うのも無理はない。けどさぁ、魔術師のくせになんでこんな変な戦い方をするのかって、思わなかったのか?」
「まさか、魔力を与え、相手の自爆を狙うその攻撃は」
「近距離を主体に戦う、剣士やらの魔力の支配を不得手とする者達に対する攻撃手段だ。お前らはまだ子供で未熟であるが故に対処できないが、魔術師相手にこの技は通用しない」
あぁ、そうか、当たり前ではないか。
体内の魔力の支配など、魔術師であれば当然の如く出来なければならない。
他と経自身の限界以上の魔力であろうと、それが自身の体内にあるものであれば、それを支配することなど、造作もない。
卒業する頃には全生徒が出来るようになっているだろう。
「さてアーテル……俺本来の戦い方、見てみたくは無いか?」
「な、結局そこなんですか」
「だって俺がここにいるのは、お前と戦うためなんだから」
「あの、学園一位の情報を話している途中では?」
「関係あることだ。まず最初に学園順位について教えた。そして次に魔術のみならギフトは四位くらいだって言った。そして、ここには学園六位の魔術師がいる。グリモワールなしのギフトの実力がどんなもんか理解できるだろ」
「初めから狙ってたんですか?」
「さて、どう答えて欲しい?」
アーテルはイフ達を一瞥すると、ルクスを睨む。
「……わかりました。戦いますよ」
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