第216話 佐助と八重の成長

「佐助、八重、どうだったんだ、彼らに同道して何か得たのか」

大山の裾で山賊を捕らえ代官所に届けた後、里に戻った刻に尾根に残された者たちが江戸組に参した佐助と八重に尋ねたのだ。

「あの方たちは話合ったりせずに動いていたのか、本に無言であったのか、どうなのだ」

「尾根から見たんでは遠くて良く解らんかったが二人もいたんか、奴らを襲ったのか」

「あの爆裂弾の仕掛けに参したのか、爆裂が怖くはなかったか」

五十人以上が次から次に問い質した。

二人は狼狽する事も怒る事も無く、只、座って黙って聞いていた。

小半刻も経った頃、問い質しても答えが帰らず、言い返しもせぬ二人に一人、二人と口を噤み出しとうとう静かになった。

「二人が何か我らとは違う世に行った様に感じるのは儂だけかのぉ~」

「儂もじゃ、こん二人は儂らの中でもずば抜けて技量が上だったが実戦に出て一段と我らは差を広げられたようだぞ」

周りがざわざわ騒いでいる中心でじっと静かに二人は佇んでいた。

答えが得られぬと悟ると騒ぐだけ騒いで人並が少しづつ減り誰も居なくなった。

「八重、我らは本に変わったのかな」

「佐助さん、おらには解らん、おらは只、舞様がお雪ちゃんに無言で手本を見せるのを見て真似ただけだから」

「何、舞様は手本を見せてくれたのかい、おらは平太さんに付いて行ったが早くて見えんかったで、自分で考えて当身を喰らわせて後ろでに縛った、肩に担げんで引きずったら平四郎さんが両肩に担いでくれた、その後、おらが倒した山賊が眼を覚ましたで平四郎様が当身を喰らわせ、おらが忘れた猿轡を噛ませ縄の縛りもやり直しをされた、情けない、じゃがな二度目は少しは出来たぞ、重くて担げんかったがよぉ、舞さんが手本を見せてくれたんなら、おらも舞さんに付いて行けば良かっただな」

「佐助どん、初めは、そんなもんじゃなかろか、あん江戸の人たちも最初から上手い訳じゃ無い、きっと何度も何度も縛り方を繰り返し練習したに違いない、おらも担げんで引っ張っとったらお佐紀様が変わりに担いでくれただ、両肩だった、おらはお佐紀様の様になりたい・・・」

「おらは龍一郎様の様になりたい、良し、これから舞さんの処に行って縛り方を習うべぇ」

「駄目だ、おらは行かん、佐助どん」

「なしてじゃ」

「直ぐに何でも習ろうたら身に付かんて言われたろうが、まずは自分で考えて、考えて、やってみて、駄目ならきかにゃ~て」

「ほ~じゃった、良し、二人で今から練習じゃ、納屋に行くぞ」

「解った、佐助どん」

佐助と八重の二人は縄での縛り方を練習する為に納屋へと向かった。

納屋には先にお雪がおり、縄での縛り方を練習しており、結局三人での練習となった。

「お雪さん、やっぱり舞さんは凄いか??? 舞さんは町人だろ、どうして、あげに強いんだ」

「佐助さん、舞様は練習、鍛錬を絶やさず、工夫もされるからだと思います、平太様もです、お二人は何時も自分を鍛えて居られます・・・今も其処に居られます」

佐助と八重が「ぎょ」として納屋の隅を見ると暗闇の中に二人の人影が見えた。

二人が明かりの元にやって来たが二人の眼は瞑られたままであった。

「お二人は今日の実戦で己の暗闇での縛りの技量不足を悟られ練習しておられるのです」

お雪が平太と舞に変わって説明した。

「・・・」

「・・・あれでも技量が足りないので???」

「龍一郎様は申されておられる、器量が下位の者は上位の者の技量を測る事は出来ぬ・・・もし己より下位の者と思う者が居れば何が劣るかと言えねば、其れは誤解、誤り、己惚れに過ぎぬ、とな・・・俺は縄の縛りでは龍一郎様、お佐紀様は無論の事、お有様、お峰様、お花さん、お高さんにも劣る、お花さんとお高さんの鍛錬の程は凄い、俺は負けた・・・勘違いをするなよ、技量が劣る事が悔しいのでは無い、己が鍛錬を怠った事が悔しいのだ、なあ~、舞」

「はい、兄さん、お花さんとお高さんの鍛錬は大変なものであったでしょう、私達もうかうかしては居られません」

二人はそう言うと眼を瞑ったままで縄の縛りの練習を続けた。

お雪は自分の手元の縄を見ずに舞の手元を見ながら手を動かしていた。

佐助と八重は三人を見て唖然としたが直ぐに自分たちも手を動かし練習し始めた。

その頃、里の同年配の者達は既に眠りに付いていた。

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