第215話 山賊退治
「では、筋書は以前と同じで良いのですね、龍一郎様」
「何か不具合でもあるかな、三郎太殿」
「いいえ、御座いませぬ、只、以前と違いまして、此方には手勢も御座います」
「まだ、気配も消せぬ者を同道など出来ぬ、動く者は江戸組と佐助、八重のみと致す、他の者は山の尾根に潜み我らの動き、働きを見て学べ、余計な手出しは禁物じゃ、例え、山賊一人、二人が逃げようとも、我らの誰かに危険が及ぼうが手出しをしては成らぬ、これは其方らが組頭、統領の指図に従うかの試しでもある、刻として員数の多い集団が格段に員数の少ない集団に負ける刻があった様だ、それは集団の長の策が悪いか長の策を守らぬ者がいた為じゃ、其方らの余計な手出しが我らの策を危うくする、例えそれが良かれた思うた事で有ってもじゃ、それはあくまでも其方らの技量の者の良かれで有って上位者の良かれでは無い事を忘れてはならぬ、只音を立てずに静かに見つめる事も修行と思え」
大山の裾では山賊たちが幾つもの焚火を囲み鍋を突きながら酒を飲み騒いでいた。
「親分・・・」
「親分と呼ぶな、と何度言えば解る、このやろう」
「統領、今夜は何処も襲わないのか」
「役人どもも馬鹿じゃねい、今頃は何処かの村か町を見張っておるわい」
「二人や三人の捕り方なんか殺しちまえば良いじゃねぇえか」
「誰がやる、てめいがやるってのか」
「・・・いいぜ、俺がやってやる」
「おぉ、今からやって来い、但し、一人でじゃぞ」
「お・お・儂一人でか、何で儂一人なんだよ」
「今晩、やりていのはお前一人だからに決まってんだろ」
「儂一人のはずはねぇ~」
男は立ち上がると叫んだ。
「俺は今からどっかの村を襲いに行く、一緒に行く奴はいねぃ~か~」
静まり返った中に声が響いたが、直ぐには返事は無かった。
「統領、統領は行かね~のか」
誰かが聞いた。
「俺か、俺は行かん、俺は今日は休み、明日も休みじゃ、二、三日はほとぼりが覚めるまで休みじゃ」
「ほんなら儂も行かん、休みじゃ、統領、行く刻にゃ~言うてくれ」
「儂もじゃ」
「俺も」
「・・・」
「恭治、ほれ、行って来い、じゃね~な、帰ってこれねぇ~から、行けだけだな、ほれ、恭治行け」
恭治と呼ばれた男は怒った様に横を向いて飲み始めた。
統領がなおも恭治を囃し(ハヤシ)立てた。
「恭治、行け、恭治、行けよ、早う行け」
統領と恭治と一緒に焚火を囲む男たちも統領の囃子に加わった。
「恭治~、行~け~、恭治~、行~け~」
その囃子が次々に広がり全員が囃子始めた。
「恭治~、行~け~、恭治~、行~け~」
「恭治~、行~け~、恭治~、行~け~」
「恭治~、行~け~、恭治~、行~け~」
その刻、統領の正面の山の上に光が生まれた。
その光は花火の様でもあり、昼間のお日様の様でも有った。
山賊たちが茫然と眺めていると、その光を背に受けて何かが現れた。
その影は岩の様に見え、人の様にも見えた。
「我はこの地に住む天狗なり、儂の留守の間に我が納める地を汚しおって、その方らを許す訳にはいかぬ、退治してくれん、覚悟せ~い」
言葉が終わった途端に統領の後ろで「ドーン」と爆裂音が響いた。
一発目の後に二発目が続き右回りに次々に爆裂が続いて行った。
爆裂の後には誰の姿も見えず、まるで爆裂と共に吹き飛んだ様に山賊たちが消えて行った。
爆裂直後に地面に伏せている山賊たちの首筋に当身を喰らわせ手足を縛り猿轡を噛ませ肩に担ぎ一か所に集める事など江戸組の面々には容易い事であった。
尾根から見つめる里の若者たちは言葉も交さず連携の取れた動きに驚きと感銘を受けながら眺めていた。
訳が解らない山賊たちは爆裂と共に消えて行く仲間に恐怖を感じ逃げようとするが次の爆裂に地に伏せ首筋に当身を喰らい次々に運ばれて行った。
爆裂が一周し静けさが戻った刻には統領と腹心の二人だけになっていた。
二人が周りをキョロキョロと見回していると正面に途轍もなく大きな人の様な者が現れた。
「そう方ら、儂の領内を荒らした罰と心得よ」
その言葉を最後に耳にして後ろから首筋に当身を喰らい二人は意識を失った。
江戸組の面々が佇み周りの気配を探り山賊が残っていない事を確認した。
「ピー」と三郎太が指笛を鳴らすと尾根にいた若者たちが降りて来て、山賊たちが略奪品を運ぶ事に使ったと思しき荷車が三台用意され山賊たちが次々に積み込まれた。
その夜半に代官所に大声が響き渡った。
「我は天狗山に住む者なり、その場に留まり我の姿を見る事は許さぬ、我の留守の間に悪さを成した者どもを退治したり、ここに置いて行く、処罰はその方らに任せる・・・さらばじゃ」
暫くして、代官の命により配下の一人が松明を持って外へ出て「あぁ~」と大声を上げ戻り代官に告げた。
「お代官、山賊どもが台車に山の様に積まれております」
「何、真か」
先を争う様に皆が外へと飛び出して行き台車三台に積まれた山賊どもの姿に驚き、統領、腹心とわざわざ張り紙までされた念の入れ様に感謝した。
代官は天狗山の方向に向かって正座し深々と拝礼した。
それを見た配下の者達も習って拝礼した。
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