第162話 決勝戦 成人の部
「此れより、本大会の最終戦、成人の部の決勝戦を執り行い申す、橘流・橘小兵衛殿、橘流・橘龍一郎殿、お仕度の程をお願い申します」
この呼び出しの係り員は橘道場の門弟だった、まだまだ末席だった・・・故に言葉使いが至極丁寧なものとなった。
待機席に座る龍一郎と小兵衛、今回の龍一郎は相手を見ず得物に木刀を選んだ。
小兵衛も龍一郎に合わせ木刀を持ち開始線へと向かった。
審判が開始線に立つ二人を確認し発した。
「は・じ・め~~」
二人は相正眼に構え合った。
二人は全く同じ右足を前に出した正眼の構えで静かに向き合っていた。
場内は二人が何をするのかと固唾を飲んで見つめていた。
静まり返った場内に「カン」と大きな音が響いた。
場内の観客は音が向かい合う二人から聞こえて来る様に感じていたが二人は正眼に構えたままで全く動いては居なかった。
静寂の場内に再度「カン」と響き、二人の姿が突然消え場内のあちらこちらから「カン」「カン」と音が響いて聞こえた。
誰も居ない対戦場に「カン」「カン」「カン」と音だけが響いていた。
その時、四隅の一画に二人が現れ小兵衛が角に追い詰められ相正眼で龍一郎が対峙していた。
暫くして、又二人の姿が掻き消え誰も居ない対戦場に「カン」「カン」と音だけが響いた。
次の瞬間、別の隅に前と同じく隅に追い詰められ相正眼で対峙する小兵衛と龍一郎が現れた。
又暫く構え合った後に二人の姿が消え「カン」「カン」と音がした後に今度は対戦場の真ん中に正眼に構えた二人の姿が現れた。
これまでも信じられない事であるのにここから江戸の街の話題を浚う事が起こった。
何と龍一郎の手が光に包まれ、その光が木刀の柄に広がり木刀の剣先へと広がって行ったのだ。
場内の観客から「おぉ~」と驚きの声が漏れた。
対戦する小兵衛も龍一郎が見せた初めての技に平静を鍛錬して来た事を忘れてしまった。
次の瞬間、木刀の柄から上が二人の間にポトリと落ち、龍一郎の木刀からは光が消えていた。
小兵衛が大半の観客が見えぬ程の素早さで打ち込んだのだ。
その打ち込みを光に包まれた龍一郎の木刀が小兵衛の木刀を柄元から両断したのである。
この光景の真実を見ていた者は佐紀だけのはずであった・・・が龍一郎はもう一人いた事に気が付いた。
そして、これまでの江戸での出来事の全てに納得が行ったのである。
龍一郎はそれには気づかぬ振りをして開始線に戻り小兵衛と礼を交わし待機所に戻って行った。
場内は観客たちの信じられないものを見せられた興奮に騒然としていた。
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