第121話 百姓女の正体
居心地の悪さに耐えられず三人は温まる間もなく湯から上がり身支度をして台所に戻った。
湯に浸かり力が戻ったのか三人は百姓女が準備した味噌汁の加減を見たり食器の準備をした。
そこへ百姓女が扉を開けて湯殿から出てきて台所へ顔を向け三人を見るとにっこりと微笑みを浮かべ広い部屋の片隅に置かれた文机に向かい置いてあった読み物を手に取った。
百姓女はそれで良いのだが三人はそうはいかなかった。
湯殿から出てきた百姓女が百姓女では無かったからだ。
湯殿から出てきた女子は長い髪を後に垂らしてはいたものの着物は武家物で日に焼けていたはずの手と顔は透き通る様に白くつやつやでその美貌たるや三人の娘たちが羨む程のものだった。
三人は何が何やら解らずに固まってしまった。
日頃、変装し他人を欺いて来た者たちだけに自分の目が信じられなかったのも無理はない。
外で男衆の声が聞こえ扉が開き固まった三人を見てこちらも立ち止まった。
「どうした」
甚八が言いつつ前の男たちを押しのけて前に出た。
「どうした」
甚八が同じ言葉をこんどは女衆に掛けた。
女の一人が部屋の中を無言で指さした。
何だとばかりに甚八も部屋を覗き固まり横に来た男衆も固まった。
部屋の中の女子が甚八の方を向いて「二コリ」と微笑んでいた。
そんな男衆の横を通り龍一郎が草鞋を脱ぎ部屋に入って言った。
「小屋の湯はいかがであったな」
「はい、良い湯でございました・・・ですが湯は外の方が宜しいかと」
「そうじゃな・・・良い湯であった」
見知らぬ女子と龍一郎が旧知の間柄の様に話しているのを見て甚八が問うた。
「龍一郎様・・・失礼とは存じますが・・・そちらの武家娘はどちらのお方でございますか」
「甚八・・・何を申して居る・・・おう・・・そうか・・・紹介して居らなんだな・・・じゃが、既に顔見知りではないか・・・解らぬのか」
龍一郎は十分に間を空けて答えた。
「二の組の頭ではないか、解らぬのか甚八」
「えぇ~あの、あの百姓女・・・失礼しました、あの女がこのお方ですか」
「変装に長けた其方らの目も欺けたか・・・大したものじゃぞ、お佐紀・・・おう、甚八この女子は私の妻女の佐紀じゃ、よしなにな」
「えぇ~龍一郎様の御妻女・・・様で・・・」
甚八だけでは無く三郎太以外の者たちが全員驚きの目と顔をしていた。
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