第107話 稽古場探し
小兵衛は龍一郎の願いに従い稽古場探す事にした。
龍一郎の思惑は江戸府内での修行の場所の確保にあり、山修行とまではいかなくても剣術の鍛錬ができる処が皆の近場にある事であった。但し公然とである、そうなれば剣の鍛錬所しか思い当たらなかった。
小兵衛たちはこの龍一郎の考えに賛同し稽古場を物色していた。
長く戦が絶えたこの時代に剣の修行を志す者は少なく鍛錬所を営み生計(たつき)を得る事は難しく鍛錬所の数は少なかった。
その中から空き家で広さも十分あるものとなるとなかなか見つからなかった。
それから七日後に小兵衛の下に誠一郎が訪ね吉報を齎した。
「ご隠居、良い稽古場が御座いました、先日浅草で捕縛され家財没収された武芸者の稽古場を南町奉行所がお貸し下さるそうに御座います。場所が何と五郎兵衛町で御座います」
「五郎兵衛町・・・・・知らぬな」
「南鍛治町をご存知ですか・・・・その南に御座います、南町奉行所にも北町奉行所にも近う御座います。
それに何より目の前にお城への橋、鍛冶橋が御座います。
この橋を渡り北に迎えば北町奉行所、また南に向かえば南町奉行所と立地は申し分無きかと存じます。これから見に参りませんか、いかが」
「それは願っても無い事、お久殿も同道したいが・・・宜しいかな」
「無論の事、ご自由に願います」
「では暫しお待ちあれ・・・・しかしあの御仁良き処に稽古場を持っておったのぉ~」
三人は七日市藩藩邸から五郎兵衛町へと向かった。
「小兵衛殿、如何で御座いますか」
「お久殿、どうかのぉ~」
三人はまず稽古場の隅から隅まで床板と根太を踏んで確かめ竹刀、防具、木刀も確かめ母屋に向かい炊事場、居間、寝間と確かめ稽古場に戻って来ていた。
町の稽古場にしては百畳程と広く以前はどこぞの藩邸内の稽古場で取り潰しか何かで藩邸が召し上げられ稽古場だけが残った様な風情であった。
「申し分御座いません、ここをお借りできるのですか、誠一郎様」
「いいえ、お奉行が・・・・父上が申しますには差し上げる・・・と」
「差し上げる・・・とは、どう言う事かな」
「罪人から奉行所を通し幕府・勘定奉行所の管理となったもので御座います。
父上が勘定奉行に南北奉行所と合わせて勘定奉行所、寺社奉行所の剣術指南所にと掛け合いました。
読売に大きく取り上げられ三奉行でも評判になった者の稽古場になり剣技の教授の機会が得られるとの事で一も二も無く賛同を得られ払い下げられました・・・・但し条件が御座います。
時として読売は事を大げさに書きたてます、読売に書かれた者、小兵衛殿の剣技を確かめたいとの事で御座います、申し訳御座いません。
明後日、朝五つ半に場所はこちらにて各奉行所より腕自慢の者達と試合う事に成りました・・・・良ろしゅう御座いまますか・・・・面倒な事で申し分け御座いません」
「何のそれだけで、これだけの屋敷が手に入るなら何度でも試合うわ」
「ほぅ~、それをお聞きして安心致しました、正直なところ面倒な・・・と断られると思っておりました」
「何の面倒なものか、たまには試合うのも良いものじゃ、ところで儂だけで良いのか」
「当日は龍一郎様も師範として同席されます、師範代は三郎太殿に扮して貰う予定で御座います」
「何、師範代に三郎太、師範に龍一郎・・・・・それでは儂の出番が無いでは無いか・・・・何とも詰らぬ」
「はぁ~、多分龍一郎様も出番を作って下さるでしょう・・・・と思いますが」
「まぁ期待しようか」
三人は稽古場を離れそれぞれの屋敷に戻って行った。
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