第51話 祝言
平四郎、お有兄弟と竹内 久、お峰の親子は清吉の店に向かっていた。
昨日、稽古の後、龍一郎の頼みにより平四郎が三人に諭し同道していた。
道すがら偶然にも誠一郎に出会い、同様に龍一郎に命ぜられ清吉の店に向かうと言うのだ。
平四郎たちは何事かと心配になって行った。
店に着くとこれまで入った事のない奥の大広間へと案内され、そこには膳が並べられ既に何人かの人が席に着いていた。
平四郎たちも店の者に言われるままに席に座り、何事かと落ち着かず周りを見渡した。
正客席には二つの座布団があり、その後は大きな布で覆われていた。
清吉、お駒夫婦と子供たちに三郎太ら店の者たちも席に着くと廊下から龍一郎が現れた。
が、今までに見た事もない裃の正装だった、事を知らない者たちは何が始まるのかと驚いた。
龍一郎が話だした。
「皆様、お忙しい中、お集まり戴きありがとうございます、・・・・本日、私、橘 龍一郎の婚儀に御来席ありがとうございます」
龍一郎のこの言葉に皆が驚いた。
「えぇー」「おおー」「あいや」「ほぉー」
銘々が喜びと驚きの声を上げた。
「では、私の妻女を紹介いたします」
龍一郎は右手を横に伸ばし、その手に手が重ねられ二人が正客席の正面の席へと歩み始めた。
その時、清吉が後の布を捲り、婚礼の道具と幕が現れた。
二人が席に着き、清吉が挨拶し婚礼が始まった。
平四郎ら事情を知らぬ者たちは二人の親の挨拶で少し事情が解った。
龍一郎の親である橘 小兵衛が満面の笑みで簡単完結な言葉を述べた
「わしは、剣一筋に生き、生涯一人者と思っておりました、年を取り病になり後悔しました、既に遅しと諦めておったのです、そこへ龍一郎が養子に来てくれ、わしの先の暗い暮らしが一変しました、そして、今、娘ができました、わしは幸せ者じゃ」
小兵衛は少し涙声で締めくくり、次に新妻の父親が話し出し、平四郎は驚いた。
「私、此度、橘 龍一郎様の嫁になりましたお佐紀の父親でございます、私は船問屋辰巳屋を営んでおります、皆様もご存知のように・・・・」
父親はお佐紀の大奥の話をし後を続けた。
「龍一郎様に大奥から出ても武家の嫁になる。と言われ、まさか、御自分の嫁になさるおつもりとは、長年商人をし、人の心を読む事には些か自信もございました私が予想も着かぬ事でございました、大奥より戻ってまいりましたお佐紀は店に戻れて私共家族に会えた事を当然喜んでおりました、涙を流して喜んでおりました、親と言う者、子供が無事に戻りますと今度は娘の嫁ぎ先が気になります、人と言うものの勝手さにございます、そんなおり龍一郎様が娘と店の用心にと泊まっていてくれました日が今日までと言う日に娘のお佐紀が嫁に出る女子の挨拶を私共に致しました、驚き聞きますと娘のお佐紀は龍一郎様の嫁になる故、明日家を出で龍一郎様と共に屋敷に参ります、と挨拶しました、狼狽した私は、龍一郎様に何かされたか、何か言われたか、と問い正しました、お佐紀は私を睨み着け龍一郎様はその様なお方ではありませぬ、と言い叱られました、お佐紀は幼少の頃より兄よりも男らしい娘でございました、言い出したら聞く事はありませんし、この男娘を此れほど女らしく変えた龍一郎様に私共も託す事にいたしました、橘様に比べ長々と話ました、お許し下さい、今後とも皆様のご援助を二人に、よろしくお願い親します」
平四郎たちが始めて会い始めて聞く話に感銘した。
その後は、皆が龍一郎と自分の始まりやら、お佐紀を始めてみた時の余りの美しさに驚いた話などで宴は続いて行った。
途中、お佐紀がお色直しに席を立ち、武家の嫁姿で戻り、角隠しで見えなかった顔を始めて見た者たちの度肝を抜いた。
さすが大奥からの誘いがあるものだと得心した。
そのお佐紀が皆に酌をして回り挨拶をした。
「今後、よろしくお願い致します」
一人一人に挨拶した。
平四郎などは何も言えず、お佐紀の顔を見詰めたまま注がれた酒も飲まずにお佐紀の顔を見続けていた。平四郎には、美形への免疫があると自分では思っていた。
妹のお有は、誰が見ても美しく綺麗だったからだ。
だが、上には上が居たしお有にはない表情、仕草に色気があった、いや、あるではない、周りに漂わせていると感じた。
平四郎は三郎太、誠一郎とは、久しぶりの顔合わせだった。
誠一郎は時々稽古場に来ていたが、改めて見ると、初めて会った時に比べ逞しく見えた何より何にも動じない雰囲気が感じられ剣術の技前の上達が感じられた。
三郎太は追手から解き放たれ開放感に溢れ年齢に合った陽気さを見せていた。
但し、何かが変わっていた、それは、常に横に従う様にしている店の息子、平太に関係しているのでは、と感じた。
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