第17話

 リリスは塔を見つめている。

 僕に流れ込む感情おもい。秘め続けた疑問と塔に近づいていく緊張と恐れ。

 神に問いかけることは出来るのか。

 問いかけた先に……何があるのか。


 ——地球に降りるたびに心が震えるの。カレンは感じたことはないかしら。生と死が秘める命の尊さを。生き続ける私達は、命の重みを感じられないでいる。


 ——私達は与えられたものを受け止め生きているだけ。それは人も同じでしょう?。


 ——受け止めて……? カレンは考えないの? あなたは死神として、魂を天に導いてるのに。


 カレンに向けられた苛立ち。

 咳払いのあと『言いすぎたわね』と呟いたリリス。


 僕を包む天界の風。

 それは涼やかで、風が通り過ぎる草原は春を感じさせる。


 ——リリスと同じことをリオンは言ってるわ。それに人になりたいって言うの。そんなこと私達に許されはしないのに。願いは叶えられないわ。


 マリーと出会い、リオンがいだいた願い。それはリオンが見いだした生きることへの答えだろうか。

 



 不死を捨て、愛する者と共に生きる。

 死後残り生きる想いがあるならば、いつかの未来にまた巡り逢える。

 何度でも生まれ変わって。




 僕が感じるのは、リリスが抱き始めたリオンへの興味だ。


 ——そう、彼は……私に似てるのかしらね。


 流れ込むリリスの感情おもい。そこに見え隠れするものがある。

 白衣に身を包む若い男。誰なんだ、この男は?


「ユウナ、誰だろう。白衣の男が見えるんだけど」

「ふむ、医者かもしれないな」

「医者? リリスには人と関わりが?」

「リクには連絡した。ここには来ない、リリスの永遠とわの一瞬をすぐに届けると言う」


 リリスが秘め隠すもの。

 閉じ込めた一瞬が男との思い出だとしたら。リリスと彼、天使と人にどんな繋がりがあるんだろう。



 塔の前、足を止めたリリスの緊張が僕に流れ込む。リリスに見えるのは、塔の前に立つ数人の見張り達だ。


 ——使と横にいるのは死神か? ここはお前達が来る場所ではないぞ。


 見張りの怒号が草原に響く。

 下級天使ってリリスのことか?

 創造の力を持つリリスは、特別な天使のはずなのに。

 創造の力が彼を生んだ。黒い翼……リオンの命は生き続けてるのに。


 ——用もないのに来はしないでしょう? 神に会いに来たのよ。


 笑いだした見張り達を前にカレンは顔をこわばらせた。なんなんだこいつら。リリスを蔑むように笑うなんて。


 ——立場をわきまえろ下級が‼︎ お前のような者に神が会うはすばなかろう。死神の女、こいつを連れて戻るがいい。


 ——下級で悪かったわね‼︎


 リリスは叫んだ。

 僕に流れ込む怒りと悔しさ。


 ——生きることに立場は関係ない。だからこそ知りたいの、私達が生き続ける意味を。


 ——死神にでも聞け。俺達は忙しいんだ、邪魔をするな‼︎


 ——邪魔なのはあなた達よ‼︎


 ——なんだとっ‼︎ 下級天使が、地下牢に閉じ込められたいか‼︎」


 リリスとカレンを取り囲む見張り達。

 見張り達の怒号の中、リリスは塔を見上げている。


 ——あなた方は疑問すら持たないの? 私達はなんのために。


 ——何に向けての疑問だ? 疑問を持つなど神への侮辱も同然。我々は神の意志で存在する、それだけのことだろうが‼︎


 リリスが殴られた。

 抗うことも出来ず、倒れ込んだリリスを包む笑い声。

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