騙れ5

プロローグ 邪神の使徒よ

 メインストーリーのクエストを探しに出かけたが、意外とすぐに目的地にたどり着いた。

 しかし、その目的地は寂れた寒村という表現が出来てしまう程度には人気ひとけがなかった。


 門番の人以外はみんな家にでもいるのだろうか?

 簡易的な柵で囲ってあるだけの村で、『門』など無いので彼を門番と呼ぶのか少し迷うけど。


 一番適正レベルの低い東門から出て、フィールドを突っ切ると辿り着くことになる村。

 ゲームの『はじまりの村』をリアルに作るとこうなるのかも。あんまり、話しかけるべきNPCが多くても大変だからね。

 『聖なる村チェリムス』という、大層な名前だけが空回りしているような村だった。


「詳しいNPCの名前は掲示板にも載ってなかったけど、この村で人助けしてれば誰かしらフラグが立つらしい」


「困ってる人なんてそこまでいないでしょ、小さな村だし見て回ればすぐなんじゃない?」


 ぼくの呟きに左腕エルが返す声がはっきり聞こえるって、ほんとに人気ひとけが無いな。


 村は宿屋の部屋のように、個人ごとに隔離されたエリアになるみたい。ぼく以外のプレイヤーは見当たらない。

 『プレイヤーが集まっているNPCに話しかければフラグが簡単に立つ』みたいな手抜きは許されないみたいだ。


「なんにせよ、村人を探そうか」



_______________________


 困ってる人と聞いてどんな人を思い浮かべるだろうか?


 例えば、腰を抑えて動かずにいる重そうな荷物を脇に置いたお婆さん。


「お荷物持ちましょうか?」


「ありが……


 ちっ『邪神の使徒』が、善人気取っちゃってまぁ。これくらいどぉってことないよ、あっちへおいき!」


 善意を持って声掛けすると、侮蔑を込めた目で追い払われる。


「……えぇ」



 あるいは、ボールを木に引っ掛けた子供たち。


「よし、お兄さんが取って……「逃げろ!『邪神の使徒』だ!」」


 きゃーと声をあげて、集まっていた子供たちは蜘蛛の子を散らすように家へと戻っていった。


 左腕エルで差し出したボールが、てんてんと虚しく転がり落ちる。


「……エル、怖がられちゃったな」


「……いや、これ私のせいだけじゃないよね」



 はたまた、斧が木に刺さって抜けないおじさんや、ビンのフタが開かない奥様などなど。


「うわぁ!お、おれの斧をどうする気だ!や、やめろ!俺には妻と子供とオッカサンとじっちゃんが!……『邪神の使徒』め!むざむざ殺されるか!」


「ビンのフタを回すように、私の首も簡単にねじ切れるとでも言いたいの!?『邪神の使徒』が相手でも屈したりはしないわ!」


 村の中で行く先々こんな感じで、人助けしようとしてもすべての人から嫌悪や怯えばかりを頂いていた。


「いや、最初に条件発見した人どんなメンタルしてるんだよ」


 途方に暮れるようにフラフラと、まだ確認していない建物。村の小さな教会へと向かった。

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