金炎の勇者 異形の怪物
「ハァァアッ!!」
小さな体躯からは想像もつかない程の
「ラァァアッ!!」
反射の様に振るわれる巨腕は、唸るように風を切り肉薄する『勇者』を叩き潰さんとする。圧倒的な質量による純粋な『暴力』としての頂点。
一瞬の交差の後
「ガハッ」
血を吐いたのは、『暴力』の少年だった。
いかに強力な一撃だろうと掻い潜られれてしまえば意味はない。
脇腹を切り裂かれ血を流しながらも、焦燥と興奮にギラついた目は勇者を睨み据えていた。
_______________________
巨大な異形の腕をぶん回し、叩きつける。轟音と風圧が辺りに爆発的に撒き散らされる様は、まるで怪獣映画のワンシーンのようだ。
予選で蹴散らされたプレイヤーからしてみれば悪夢のような大破壊。
同レベル帯モンスターの血肉を大量に喰らうというコストがある為、ここまで使うことの出来なかった切り札。
並のプレイヤーならその攻撃範囲の広さから逃れられず文字通り蚊を潰すように圧殺されていただろう。
その凶悪な一撃を歯牙にもかけず、ヒュンと風を切る音が耳元で鳴る。
「っ!」
大げさなくらい身体を傾けて回避する。速く、鋭いそれは軽やかな音に反して
今の攻撃もエルで受けるならともかく、生身にもらうと間違いなくタダでは済まなかっただろう。
「ハッハッハ、このまま削りきっておしまいか?」
脇腹に掠めるようにもらった一撃もじんわりと熱を主張している。アドレナリンで感じないだけでかなりの痛手のようだ。
エルが受け止めてくれた光の剣のダメージも合わさり、あまり
だが、回復しない。
エルのスキル『
そうでもしないと、この
弾丸のように跳び回る勇者は、慣れ親しんだ北門の兎のように知覚出来る速さの少し先の速度を叩き出す。
どうすれば勝てるだろうか、どうすれば殺せるだろうか。思考を回して手段を取捨選択する、攻撃がくる、躱す。侵食率35.36.37…
知覚できないなら、予測しろ、殺すならどう来る?今までも出来ていたんだ、オレなら出来る。
焦りと高揚が自分の中でカクテルになって、どんどんテンションがハイになる。侵食率47.48.49……50%
殺気を読め、読んだ先で殺り返せ!
「ハハッ」
ちょこまかと小さな勇者が駆ける。
忌々しい、捻り潰してやる!
その身を
あぁ、あぁ
速さが足りない! もっと速く!疾く!
侵食率は上がり、身体がヒトではないモノに置き換わる。焚火に木を
中々進まないパーセンテージの上昇に焦らされ、苛立ちながら殺意が高まる。
上がれ、上がれ!
殺せ! 殺せ! コロセ!
まるで意識まで怪物に成り代わっていくようだった。
「エル!無駄な体積を
「っ!!了解だ!」
巨腕の赤黒い血肉が伝い、這い寄り纏わりつく。
巨腕の体積が減り、少年だったモノは醜悪な肉の大男と成る。
その姿は、小柄な勇者と対になる様に邪悪な魔王といった様相だった。
紫の毒々しいコートも変化に巻き込まれ飲み込まれ、『
まだ人間である頭部や右半身を覆うように血肉の鎧が形成される。
巨大化していた腕が少し縮んだが、身体も大きくなることで多少バランスが取れたサイズになっていた。
もっとも、形は人型でも人らしき部分が見当たらない姿だった。
人間から変貌したモノから咆哮が轟く。
「グァァァァ!!ブッコロシテヤルッ!」
「!?……第2形態かよっ!!」
人間離れした憎悪と殺意の籠もったシャウトに大気を震わせ、さっき迄の守勢から打って出る。
「GAAAAAAA!!!!」
鎧の各所に巨大な口が形成され、鋭い牙を見せつける。
その口の一つが呆れたように声をあげた。
「……弁解させてもらうけど、私はラティの声帯にまだ侵食してないからね?禍々しい咆哮とか私は関与してないからね?」
「地声なのっ!?」
変な所で驚かされる『勇者』の隙を突く様に飛び掛かる。
「グォラァッ!!」
さっき迄よりもコンパクトに、勇者を正確に捉えて撃ち抜く様な一撃。
「っとぉ!」
小柄な身体で躱すも、冷たい汗がこめかみを伝う。躱せたことに一息つ「なッ!!」
背中に衝撃、白塗りの鎧が軋み身体が浮かぶ。
マッシブな姿に変化して直接殴り掛かってきたのはブラフ、背中から伸びているもう一本の腕が本命。
瞬時にそう理解するも、潰れた肺が空気を吐いて生き物として回避不能な一呼吸分の隙が生まれる。
ニィッと肉の鎧の兜に笑顔が浮かぶ。
侵食率over80% 思いのままに侵食部を操れるというよりも、異形そのモノとなりつつある『彼』の表情は禍々しいの一言に尽きる。
「ツカマエタ」
追加で腕がずるりと異形の
左腕が変化する、杭のように長い一本の巨大な牙を伸ばしたその形状に『勇者』はこれからどうなるか察しがついた。
「ちょっ!!?」
慌てて手足の拘束をどうにかしようとするが、がっしりと掴まれていてどうにもなりそうに無い。
一瞬の
土手っ腹に大穴が空けられる寸前、叫ぶ。
「『
力強い宣言とともに、金の炎が辺りに撒き散らされた。同時に手足を拘束していた触腕も燃やし尽くされる。
「なっ?!」
巨杭の歯を突き立てんとしていたが、腕が焼失したのと同時に
小さな勇者を金色の炎が包み込み、爆ぜる。
大人の姿に戻った勇者がそこにいた。
金の炎を鎧の各部から覗かせるその姿は白い鎧と合間って眩いまでの光を感じさせる。
「さしずめ、金炎の勇者って感じか。どうだ?おっちゃんカッチョいいだろ?」
口では余裕を感じさせつつも、表情は何か苦いものがある。
どうやらコストの重いスキルのようだ。
「このスキルを使ったからには、早く終わらせなきゃならん。」
煌めく炎の残滓の中、勇者は構えた。
「じゃあな」
認識できたのはそこまでだった。
殺意すら置き去りにし、金色の炎の軌跡だけ残した袈裟斬りの剣閃。
ドシャリ、斜めに走った線に沿うように異形の怪物の上半身が崩れ落ちた。
耳が痛い程の静寂。
ここに決着は成った。
異形の死体はグズグズと崩壊を始め、水溜りめいた状態になった。
「……少年ってホントにプレイヤー?モンスターの間違いじゃないの?」
見たことの無い死亡エフェクトにドン引きしながらも、確かな手応えを感じていた。
これで、ゲームマスターに会える。
滅びる定めと言われる世界の真実を尋ね、崩壊を止める方法を知れるかもしれないチャンスだ。
ストーリーを進めても知れるかもしれないが、万が一滅んでしまっては困る。
2位でも尋ねられるかもしれないがストーリーの根幹を直接聞く以上は優勝賞品として答えざるを得ない形で聞きたかった。
「さてと、」
闘いは終わった。ゲートを通ろう。
「ん?」
そういえばまだ、ゲートが出現していない。
ごぽっと背後から何か液体が沸き立つような音がした。
『侵食率が100%に到達しました、操作権限が移行します。』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます