ロックンロール


ドアを開けた先は宿泊した部屋の前だった。


あの空間のドアと、この部屋のドアが繋がってたみたいだ。


「とりあえずギルドに降りようか。」



階段を降りてギルドのホールに入ると、既に人が多い。


みんな、アンドレイから武闘大会のことを聞いたのだろう。


ホールはギラギラとした目付きのプレイヤーで溢れて殺気だってる。


「いい雰囲気だ。」



「その感想はおかしいでしょ……」


エルの言葉ツッコミはさておき。


初心者の服のプレイヤーしかいなかった昨日に比べ、いろんな装備のプレイヤーが増えている。


競争は始まっている。


「ぼくも装備を脱初心者しないとかなぁ……よく分からないけど素材は色々あるし、何か作って貰えるかも!」


そういえば、装備を作ってくれる場所の地図を貰っていたね。


お金もそこそこ持ってるし行ってみよう。



______________



と、言うわけで


「占い師のお婆さんの所にきました!」


「なんで、来たんじゃ?……」


「鍛冶屋さんに会う為に」


「……ほんと、なんで来たんじゃ??」


冗談はさておき


「鍛冶屋さんの場所はレジスタさんに聞いてます。ですが、多分かなと思ったので!」


占い師のお婆さんの目が少しだけ見開かれた。


「ほぉ……」


「レジスタさんの話だと序盤として東の平原、中盤の惨殺平原エッジウェイなどがそれぞれ存在します。


どちらにも接するロンディニアの街に序盤用の鍛冶屋しかないのは不自然だと思いません?」


「なるほどの、お主の推察の通りじゃ。この街にはギルドが最初に案内する鍛冶屋以外にもいくつか店があるの」


「その中で、ぼくに合いそうな工房があれば紹介して欲しいです。」


「ふぅむ、『一人の異邦人に肩入れし過ぎてはならぬ』と神話では言われておるが……どうしたものか?」


そんな、邪魔な神話があるのか……


「なら、金銭で情報を買うのはどうでしょう?」


ちょっと前に観た、マフィアものの海外ドラマで情報屋が出てきたのを思い出した。


「クエストって形で異邦人との取引は存在しますよね?ルール的にはセーフではないですか?」


お婆さんは、ひたいに手を当てて考えてる。


「むぅぅ、10万Gなら手をうってやろうかの?ちょっと欲しいものもあるしの。」


「その値で買いましょう!」


「ずいぶんと高く買ってくれるんじゃな?」


「探すの面倒です!戦闘出来る時間を削るのも勿体もったいない!」


「清々しいくらい振り切れとるの……ほら、地図じゃ」


「はい!10万G差し上げます」


どうやってお金を渡すのかとメニューをいじってたら、

メニューの所持金の項目から引き出す金額を入力できた。


画面から、ちょっと重たい硬貨の入った袋が出てくる。


「地図の目的地の名前は……『ヴィースト・ウッド』?」


「そうさね、服屋と鍛冶をちょこっとみたいな店じゃが腕は確かな店じゃ」


ほぉほぉ?服屋なの?


「これは紹介状さ、持っていけば話しもスムーズにいくじゃろう」


お婆さんは便箋びんせんを渡してくれた。


「ありがとうございます!早速行ってきます!」


貰うものもらったから、さっさといこう!




少年がいなくなった後の路地に、取り残されたお婆さんがいた。


「……10万Gあったら、ギルドのオススメ鍛冶屋で一番いいのを揃えられたんじゃがの。


まぁ、後々に価値が出るじゃろうて。」


その呟きを聴くものは、誰もいなかった。


__________________


目の前にある建物と地図を見比べる。

場所はここであってる。看板も三回くらい確認した。


「…………」


『ヴィースト・ウッド』とド派手に書かれたその店は、ショーウィンドにボンテージ衣装やトゲトゲした世紀末なジャケットを着たマネキンが飾られてる。


「…………10万かけて教えてもらった店だし、入るしかないか。」


ドアをくぐるとギターとドラムの軽快でいて、激しいリズムが耳を打った。


見るとレジっぽいとこに、ロックなミュージックを大音量で垂れ流してるラジカセが置いてある。


ラジカセは世界観的にセーフなのだろうか……?

オーパーツ??



ふぁっきゅー! しっと!

罵詈雑言と思われる単語が乱舞する歌詞を聴き流しながら、この店に来たことをちょっと後悔する。


「すみませーん!」


音に負けないように声を出すけど、依然として店の中に人の気配はない。


店の奥まで届くように更に大声を出す。


「すみませーーん!!!」


「そんな、大声を出さなくても聞こえるよ」


ひどい騒音の中でも冷ややかで、スッと耳に入り込むようなその声が


「うわっ!?」


その人は天井に逆さまにぶら下がっていた。


「ごきげんよう。今、そちらに降りよう。」


挨拶をしながら、軽やかに降り立ったその人は事も無げに言い放つ。


「こうも、騒々しいとお客様が来てくれても気づかなくてね。入り口で待っておくことにしたんだ。」


「……音楽を切ればよいのでは?」


「あの音の出るアイテム鳴り止まないし、捨てられない呪いのアイテムでね。」


「……もしかして、夜中も聞かれてます?」


その人は、美白というよりは不健康な程、真っ白な顔に黒々とした隈が浮かんでいた。


それに合わせて、ぶら下がっていたからかツンツンと髪が逆立っている。

……パンクロッカーみたいな人だな。


「これは生まれつきだよ」


バサリとブラックレザーのコートを広げて宣言する。


「自己紹介がまだだったね。


私は『マルシャス・マルクレン』。偉大なる不死の一族ヴァンパイア……のはみ出し者だよ。」


ニッと笑うドヤ顔から、ヴァンパイアとは珍しいモノなのだろう。


種族のことは、詳しくないから普通に自己紹介を返す。


「ご丁寧にどうも、ぼくの名前はラティ。」


そして、


「私はエルだ」


左腕が突如として、擬態モードから禍々しい異形の腕へと変貌を遂げる。


「……ヴァンパイアよりも珍しいな。」


マルシャス氏の顔がひきつってるが、いつもの事なのでスルーする。


「お婆さんから紹介状を貰ってここに来ました。」


「ふ、ふむ。拝読しよう。」


お婆さんから貰った紹介状を渡す。


「なるほど、なるほど」


チラリとエルを見ながら、納得される。


「君の相棒のエル君を手に入れる代償に『腕』の装備枠を無くしてるんだね」


「……あ」


忘れてた。


「普通、装備は一式揃えると『セット効果』を発動出来るのは知っているかい?」


「初耳です……」


あー、モンスターを狩るゲームにもあった気がする。


「だろうね。『セット効果』の恩恵は割りと大きい。君にはそれが使えない。」



ちょっと落ち込んでたけど、マルシャス氏の言葉に顔を上げる。


「私こそが、この街で唯一の反逆反骨服飾家パンク・ロック・デザイナーなのだ!」


ちょうどお店のBGMのギターが、ギュィインと盛り上げるようにエレクトリックな音を奏でた。


「……パンク・ロック??」


お婆さんは、なんでこの人を紹介したんだろう?




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