学校での戦闘


アプリを起動して左腕を見ると、左腕エルになっていた。


頬っぺたがないのにむくれてる気配がする。


「遅い」


「ごめんよ…」


平謝りしつつ、アンドレイさんを探す。


ちょっとアンドレイさんに聞きたいことがある。何処だろう?


見回すと教壇に立っていた。

そこに立たれると科学の先生みたいだ。


「何か聞きたいことがあるのかね?どうぞ、何でも聞きたまえ」


鷹揚おうよう微笑ほほえみながら、質問を求める姿は益々ますます教職者っぽい。


「ありがとうございます。モンスターの出現位置や条件って教えてもらえます?」


「よかろう、ヒントになるが……大丈夫だろう。位置は指定されていないが、出現条件は大きく3つある。

1つ目は、『開けた安全な場所』

2つ目は、『視認してなかった場所』

3つ目は『その日、モンスターを観測してない場所』


以上の3つだ。」


確かに朝の時の公園も該当する条件だ。


だったら、学校ここになるかもしれない。


ぼくのかよう『私立 高山学園高等学校』は中高一貫で教室がたくさんある。


創立から浅い私立の学校で、今後の生徒数が増えるのを見越してか多めに教室のある建物になっている。


だから『開けた空き教室』という、とても好条件の場所がいくつもある。


部活もないし、ぼく以外の生徒もほとんど帰って居ないだろう。


つまりは、暴れ放題!


というわけで、さっそく最寄りの空き教室にやってきた。


ガラララッ ピシャッ


空き教室のドアを勢いよく空けると


「グワァァァア!!、ハラヘッタ!」


お、おう。

あれはまさしく『餓鬼』だろう。


醜く膨れた腹に浮き出た肋骨、枯れ枝のように細い手足。

所々ところどころ歯の抜け落ちた口は、飢餓きがを癒せるモノを求めてだらしなく開けられている。

ギョロりとした目玉だけが爛々としている。


「いやぁ、我ながらいいセンスの造形だ!これぞ『餓鬼』!満たせぬ飢えに狂う地獄の亡者!」


悪趣味だなぁ……異形腕エルの産みの親のセンスにホラーテイスト以外は期待できないか。


「おい、その感想って私まで悪く言ってないか?」


「え?多少不気味なのもカッコいいしぼくは好きだよ。否定したり悪く言うつもりはなかった。」


「……ストレートに好きとかいうなよな…」


左腕が熱い……照れてるのかな?


クールダウンする為にも戦闘に熱を向けるべきだろう。


インベントリから『ハジマリの短槍』を取り出して準備する。


「さぁ!死合おうか!」


『エンカウント!餓鬼!アクティブモンスターです!』


餓鬼に向かって駆け出した。


回転、捻り、重心移動、間合い、勢い!!!


ナマハゲ師匠に言われた事を思い出し

突くっ!


シュッと鋭い風切り音を出して進む穂先は


「グギャァアッ」


叫びながら両手を広げて襲いかかってこようとする『餓鬼』の喉を貫いた。


「ッァア?」


目玉だけが信じられないモノを見るように貫通してる槍の柄を見やる。


ぐるンと『餓鬼』が白目を剥いた。


「……汚いし、弱い」


振り抜いて『餓鬼』をべちゃりと捨てる。


ナマハゲ師匠に鍛えられた、ぼくの敵ではなかった。

というか、ナマハゲ師匠がそもそも負けイベント並みに強すぎるんだよ!



「私、出番無かったなぁ…」


愚痴るエルに申し訳なく思いつつ、

アンドレイさんを振り返る。


「なんで、こんなに弱いモンスターが出てくるんですか?」


アンドレイさんも不思議そうにしてる。

「ゲームバランスはこのワタシが完璧に合わせている……あ、」


おや?アンドレイさん?


「すまない、ワタシとしたことが。ステータスの振り分けをしないとレベルの上昇をカウントしないシステムであるのを説明してなかった。」


納得がいったとスッキリした顔でアンドレイさんは言う。


「つまりキミは経験値上は最低でも4レベル相当の戦闘経験を積んでても、数値上は現実レベル1のまま!だから、敵もレベル1なんだ!」


現実こっちにもステータスがあるんですか?!早く言ってくださいよ!」


呆れた顔をぼくが向けると


「いや、ナマハゲ倒してドタバタしだしたのはキミのほうだろう」


と、肩をすくめられた。


すみませんでしたっ!


ぼくは、この時は笑っていた。

の意味を理解していないままに。

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