現実ステージ

左腕エルをしげしげと眺めるとゲームにいた時と違うことに気付く。


「エル、痩せた?」


「違う。なんだか力が出ないし身体が動かしにくい」


ニュッと横からアンドレイが補足してきた。


「さっき言っただろう?スキルは効果が落ちるって」


そう言ったアンドレイを見た瞬間


「お父さん?!」

エルが驚いたように声を出した。


って


「お父さん??!」


ぼくも驚いた。


当事者のアンドレイは不思議そうにしている。


「?イレギュラーパターン?今のワタシには答えられない状況が起きたようだ。」


「私です!『No.7』です!覚えておられないのですか?!」


エルが取り乱している。それでも、アンドレイは不思議そうにするばかりだ。



アンドレイは少し考える素振りを見せてから語り出した。


「仕方ない、イレギュラーが発生したので種明かししよう。

ワタシは君と会話してるようで本当は君がと話してるんだ。

人は話すときにある程度考えて話す。その思考を読み取って、君の頭の中に仕込まれた『ワタシ』が返答してる。」


??よく分かんない


「今、君は『分かんない』と思考した。つまりワタシは『解答を教える行動をするべきだ』と君は潜在的に考える。そして、それにこたえてるんだ。」


つまり、こんな感じなのかな?


「自分が考える空想の物語の登場人物Aさん、Bさんに喋らせるように。AもBも話す内容を考えてるのはどっちもぼくってこと?」


アンドレイは『我が意を得たり』と

大仰おおぎょうな動作で手を叩いた。


「そう!That's rights!!(その通り)

君はキミの思考と話してるんだ。

そして、イレギュラーパターンはその思考の範囲外の事が起きたってことさ。」


「エルについての事は答えられない。答える知識・回答がないってこと?」


「そう!そうだよ!」


一連の会話を聞いていたエルは落ち込んだ様子を見せる。

迷子の子供が親を見つけたと思ったら似た服の別人だった時のような。

そんな悲しさが伝わってきた。


「今回は偽物だけど、プレイしていたらいづれアンドレイさんの本体にも会える?」


「それはもちろん!ワタシはプレイヤー諸君に常に興味とを注いでいるよ」


それが分かればいい。


迷子を見ると交番やセンターに送り届けてアナウンスしてもらってから、親子の再会までちゃんと見守らないと気が済まない性格なんだ。


「エル、いつか必ず会わせてあげる。ここまでプレイヤーに興味がある人なら、トッププレイヤーになれば必ず会える場面があるはずだ。一緒に頑張ろう。」


落ち込んでいたエルも少しして踏ん切りがついた。


「あぁ、お父さんが見逃せないようなになろう」


2でトップを目指してみよう。

斬殺平原エッジウェイもウサギを倒せれば経験値効率はいい(たぶん)。プレイ時間の関係ででの廃人はいない。


あとは現実こっちのプレイ時間で差をつけられないよう頑張んなきゃ。


「話はまとまったかい?」


「はい。現実世界でも少しでも強くなって貴方の本物に会います。」


「フフッ、本物ワタシも楽しみにしてると思うよ。」


男はそれだけ言うとくるりと振り返って先を歩き始めた。


「さぁ、早速『モンスター』を探しにいこう!」


「はい!」


「あ、いた」


さぁ行こうぜと駆け出そうとした瞬間にエルが見付けてしまった。

肩透かしを食らった気分になんとも言えない表情になる。


「ほらほら、そっち!殺しに行こう!」


る気満々でエルが指差す。


その先を目で追うと公園に確かに『モンスター』がいた。


藁を纏い、包丁のようなモノを持って、角を生やしたボサボサ頭。怒るが如し、まさに鬼のような形相ぎょうそうをしてる。


間違いない、アイツは


「ナマハゲじゃん!?ゴブリンとかじゃないの?!」


「ここは日本だぞ、西洋じゃないんだ。ナマハゲに決まってるだろう。秋田県から遠路遥々えんろはるばるやって来て下さってるのだぞ!」


「決まってるの?!それに、秋田のナマハゲって神の使いみたいな神聖な存在だった気が……。戦っていいものなの……?」


「ほぅ、よく知ってるな。感心感心。」


ナマハゲを知ってることに嬉しそうに頷くアンドレイ。

絶対この人の趣味で設定してる、間違いない。


「初めての現実での戦闘はプレイヤー全員ナマハゲと戦う設定になってるぞ。(ナマハゲ流行れ)」


小さく何か呟いた気がするが聞かなかった事にしよう。


「こっちの世界での戦い方を教えて下さる、精霊的な存在だとでも思ってくれたまえ。」


それならまぁ、セーフかな?


戦ってみよう!


『エンカウント!ナマハゲ!パッシブモンスターです。』


「泣く子はいねがー!!ウォー!WOOO!」


公園にて吠えるナマハゲに駆け寄ろうとする。と


「『武器』をもたねがー!!」


至極真っ当な指摘をされて立ち止まる。


「ナマハゲのアドバイスだ。『インベントリ』から武器を出せ。ちゃんと装備しないと意味がないぞ」


……ありがとうございます?


敵であるハズの存在ナマハゲから指摘されて微妙に釈然としない…


いそいそとメニューからインベントリを開き、『ハジマリの短槍』を取り出す。


「ちなみに『モンスター』にはこの世界の武器は通用しない。

金属バットや木刀を振り回されても危ないし、意味がないから辞めるのだ……

素手や蹴りは少しは利くがあまりオススメはしないぞ。」


「ウォー!WOOO!うぉー!装備はしたがー?!」


確認してくれるナマハゲに殺る気ががれる。

普通にいい人にしか見えないっ!


が、殺ると決めた以上は殺るのがだ!


「いきます!」


駆け出し、短槍を突き出す。


シュッ!!


ウサギ狩りで慣れてきた突きだ


が、


ナマハゲの出刃包丁でいなされる。


「ウォー!WOOO!もっと穂先の回転を意識しねがー!」


戦い方を教えて下さるなら、ちゃんと取り入れて殺してやろう。


「ありがとうございます!」


アドバイスを取り入れた突きを放つ。


シュッッ!


「ウォー!腰の捻りが甘くなってねーがー!」


「はいっ!」


腰の捻り、重心の移動をより意識する。

そうして何度か突きをされてると


「ウォー!払いはねぇがー!」


「!? はいっ!」


突きの次は切り払いを教わり。


「ウォー!!払いはいいぞー!」


「ありがとうございます!!」


「ウォー!石突きも使えーっ!!」


「分かりました!」


そうして、

槍での基本的な攻撃動作を一通り教えてくれた。


「ウォー!怠け者はいねーがー!悪い子はいねーがー!」


「はいっ!いません!怠けることなく精進していきます!」


突き、切り払い、柄や石突きでの打撃。

戦局による、槍の持ち手の位置の切り替え方や、その効力・力の伝わり方の変化。

槍の合間の格闘術までも網羅した圧倒的な個別指導。


師匠ナマハゲは凄い人だ……


全力で戦っててもダメージが溜まってる様子は無い。

むしろ、攻め立てるオレの方が、ゲーム世界の時とは違って疲労を感じていた。


いなし、受け止め、攻撃の威力を逃がして無力化する様は正に鬼神のような技量の高さが伺える。


勝てない、殺せない。

そう、考えかけた時。


「私に作戦がある。」


「エル、どうにかできるの?」


「出来る。左拳を強く握れ、タイミングを合わせろ。を使う。」


オレに必殺技なんてあったっけ?

言われたままに拳を強く強く握り締める


「お前にはないけど私にはあるだろ?」


掌の中で何かがバチバチと、耳をませば

キィィイィィイィィイと、聞こえる。


あ、か!


「泣く子はいねがーっ!ウォー!」


吠える師匠に吠え返す。


此所ここに居るのは益荒男ますらおだーっ!」


ガガがガガッ


槍の突き、払い、反転柄での打撃、振り上げ顎狙い!


怒濤の連続攻撃も全て弾かれる。


「あと、10秒。合わせて!」


槍のラッシュの回転速度を上げる。

もう、体力がない。ここで決める。


ガガッドッガッカ ビュンッ


喉への石突きでの打突

からの後ろ蹴り

足を蹴り返され払われた


着地 距離が狭い

短く持ち変えて振り向き様に切り払う

弾かれた


柄を持ってバットの様にスイング

半歩下がられ範囲外


息もつかせぬ連擊


あと7秒


ビュン ガッ


距離が取れた、突きを放つダメだ

直線じゃダメだ


即座に下段の払いに軌道を切り替える

草履の裏で防がれる


あと6


槍を回し

持ち方をまた変える


師匠の出刃包丁はリーチが短い

片手で扱う以上は力も載せにくいはず


あと5


長く持って遠心力を乗せた打撃中心の攻撃に切り替えた。


4


ブォン ガッ ブォンッ ダッ


振るう槍に任せてぼく自身もくるくると

回る、時として回転を止めて

制動の勢いを溜めて高速逆回転の打撃

穂先での払い


3


石突きの打突も交え、また回転する


2


回転の最中さなか師匠に背を向ける


オレの攻撃が、届かない。


けど、


1



「「今だっ!!!」」


背を向けたのは左腕を隠す為、


そして回転の勢いを使って槍を

投げる為だ!


「!?」


いきなり飛んできた槍を弾き落とした

ナマハゲが見たものは


暗い光とも言うべき闇色のエネルギーの奔流だった。


シュィイインっ

空気さえも焼け切るような鋭い音は

相当な熱量を想起させる。

前エルがオレに撃ったよりも細くはなってる。それでも、人の頭を飲み込む程の太さのある光線ビーム攻撃。


『暗き光』だ。


「ぐわぁぁぁあ!!」


光線ビームの当たったナマハゲの面が、バチバチと焼け落ちる。


少しして照射が止まり、

ナマハゲが膝をつく。


「教えてやった槍を使わないとは悪い子だ……が、見事な不意討ちだ。」


叫ぶ余力もないのだろうそれだけ呟く様に言ってナマハゲは光に包まれた。


「こうでもしないと、勝てなかったです。ありがとうございました」


『戦闘勝利!現実経験値1000と『素材:割れた鬼の面』を手に入れました。』


ナマハゲとの戦闘で、

汗でびしょびしょになってる。


ブレザーを脱いでおけばよかった。


……ブレザー??


あ、学校!!!

そして社会の課題っ!!


「Congratulations!!さて、「アンドレイさん、ごめんなさい!!学校行かなきゃまずいです!」


さえぎるように声をかけると、アンドレイは分かったよと苦笑した。


「……続きはまた、放課後かな?オートセーブはされているからアプリは好きなタイミングで閉じたまえ。」


アンドレイは肩をすくめて フッと消えた。


「エルもまた後で!」


「学校?よく、分からないが用事を早く終わらせてレベルを上げに戻ってこい。」


「あぁ、また!」


そうして、ぼくは耳からイヤホンを引っこ抜いて全力で学校へ駆け出した。

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