その果てに得たものは
横たわる死体を見て、勿体ないと思う。
『システムメッセージ:Lv UP!Lv UP!Lv UP!Lv UP!…獲得経験値が上限に達しました。』
「おめでとうございます、チュートリアルで獲得出来る経験値の上限まで経験値を獲得出来ました。」
「…」
経験値には、そんなに興味がない、
「それより、コイツが欲しいなぁ」
『negatio-lux≒esse』を指さして言うと、
困惑した顔をメイカさんは浮かべる。
「素材的な意味でしたら、ラティ 貴方様の所有物ですが…最もスキルを創造するのがこの部屋の役割なので、素材から装備を作るのはここを出てからになります。」
今、何か思いつきかけた。
「ここはスキルを創れるんですよね?」
「はい、スキルを創れる空間です。血みどろの戦闘訓練を延々する場所では無いです。」
ちょっとジト目で見られる。
…まぁ気にしないでおこう。
「なら、『negatio-lux≒esse』でスキルを創れます?」
「はい?」
「コイツをスキルにします、【行動】も考えますのでコスト試算お願いします。」
「あ、ハイ」
「それと、『
この空間を出るまでスキルが確定されない。それをいいことに散々世話になったスキルを切り捨てる。
「…部屋から出てないのでルール的には可能です。実行します」
_____________
【Name:Laty】
種族:ヒューマン
称号:『臨死体験ソムリエ』『持たざる者』
LV:10
HP:205
MP:210
STR(力):55
INT(知力):55
DEX(器用)55
AGI(敏捷)55
MIN(精神):55
VIT(頑強):55
SP(スキルポイント):600
VAR(拡張性):600+1000=1600
オリジンスキル:
『愚者の傲慢』
【効果】パッシブVAR+1000
【行動】常時痛感軽減設定無効
_____________
これで、今のレベルとスキルだと1600のVARがある。
「お待たせしております、現在『negatio-lux≒esse』をスキルに変換することに関しては可能と判定されました。ちなみにどういった形でスキルにされるのでしょうか?使役系ですか?」
「腕にする感じで出来ませんか?」
「え?装備品にするということでしょうか?」
「オレの腕の代わりにくっつけるんです」
「oh…想定外です、再計算してみますね。」
メイカさんはいつぞや使っていた、そろばんをジャッと取り出して演算する。
「出ました、現状の『negatio-lux≒esse』ですとVAR5000相当になります。しかしながら、レベルをダウンさせてからの蘇生であれば2500程度まで抑えられます。」
「ふぅむ…今回もらった経験値をコストとして返上出来ませんか?」
「経験値は難しいですが…VARとSP以外のステータスをコストに出来ます。レベルは10のままですので次のレベル11までは初期のレベル0と同等ステータスになりますが。」
「かまいません。」
「かしこまりました、そちらで2000まで落とせますね。」
「うーん…あ、このゲームって装備品の枠っていくつありますか?」
「装備枠ですか?『頭』『腕』『胴』『腰』『脚』『装飾品』『武装(右)』『武装(左)』の8つですね。」
「でしたら、『武装(左)』『腕』も使用不可にしてしまって下さい。」
「かしこまりました、そちらで…1000になります。」
「おぉ!それでお願いします!」
「かしこまりました『スキル』の作成を実行します。」
メイカさんの手から無造作に紫電が放たれる。
「『
死体になっている『negatio-lux≒esse』がビクリと激しく痙攣する。
…回復魔法?ですよね?
痙攣が収まると、力無く閉じていた
絶対に何が起きたか把握できてない顔(?)だが、まだ蘇生が済んだだけだ。
「おはよう、いっぺん死んだ感想は?」
困惑しながらも腕は応える。
「…ワタシは、コノ感覚 アマリ クリカエシ タクナイ」
「何回繰り返すかは分からないが、次からは、一人じゃないから安心しな!」
転んだ幼子を引き起こすように、差し出された左手をよく分かってない異形の手が握り返す。
「対象ユニットの接触を確認。IDを混在化。MOBユニットをスキルとしてリメイク…実行します。」
手を繋いでしていた、人間の左腕から皮膚や肉がジュワリと消え失せ、神経と骨だけになった。手を握っていた『negatio-lux≒esse』も一瞬ジュワリと溶かされた。
溶けたそれは、人間の腕の肉や皮膚のあった空間に流れ、骨と神経を包み込み再度腕を形作り直される。
唐突に人間の左腕に就任した、
『negatio-lux≒esse』は益々困惑する。
「ほぉほぉ、いい感じだ!」
ぼくは異形の腕を軽く振り回してご満悦。
「人間、何をした?」
「お前をぼくの一部にしたのさ、スキルとしてね。話し方も人に近づいたね、おめでとう」
「…はぁ?」
「そういえば『negatio-lux≒esse』って長いよな、名前をあげよう。」
「ちょ、ちょっと待って欲しいところに畳み掛けないでくれないかな?」
「意味は『光亡きもの』だったかな?うーん、縮めてもあんまりしっくりこない」
「私の話を聞いてくれないかな?」
「光亡き…『ロスト』、『ネガ』、……光が無い、なら…得よう!得る!『エル』がいい!」
「会話が成立しないっ!」
「お前が気に入ったからスキルとしてぼくの一部にしてもらった!お前の名前は『エル』になった!以上!」
「雑ぅ!?」
_____________
【Name:Laty】
種族:ヒューマン(一部を除く)
称号:『臨死体験ソムリエ』『持たざる者』
LV:10
HP:105
MP:110
STR(力):5
INT(知力):5
DEX(器用)5
AGI(敏捷)5
MIN(精神):5
VIT(頑強):5
SP(スキルポイント):600
VAR(拡張性):600+1000-1000=600
オリジンスキル:
『愚者の傲慢』
【効果】パッシブVAR+1000
【行動】常時痛感軽減設定無効
『
【効果】パッシブ:『negatio-lux≒esse』を左腕とする。
【行動】常時装備枠『武装(左)』『腕』使用不可。レベル10時点の一部ステータスをレベル0時点と同数までダウン。
VARコスト1000
_____________
うむ、満足。
『エル』のステータスもぼくのステータス画面から確認が出来るようだ。
_____________
【Name: EL 】
種族:『negatio-lux≒esse』
称号:『光亡きモノ』『異形の左腕』
LV:10
HP:- (player:Latyとの共有)
MP:1000
STR(力):2070
INT(知力):1050
DEX(器用):235
AGI(敏捷):380
MIN(精神):120
VIT(頑強):666
SP(スキルポイント):0
VAR(拡張性):0
スキル:
『暗き光』(弱体化)
【効果】体積の一番大きな瞳から魔術系ダメージ(中)の光線を放つ
【行動】20秒の溜めと、使用後1分感は使用した瞳から視力を失う。MP全消費
『光届かぬ口腔』
【効果】口に収まるサイズの魔術・飛び道具を補食した場合、ダメージを計算しない。
【行動】無し、種族固有スキル
『不定形の身体』
【効果】身体構造を自由に変更できる。
連続で変更する場合はクールタイムが必要。
体積には限界がある。
【行動】無し、前提種族固有スキル
_____________
イイね!便利そうだ。
「色々、ツッコミたい所はある。何故殺した私を生き返らせた?」
「ぼくはお前と闘って、戦って死力を出し尽くしたそれはエル、君もおんなじはずだ。その中でぼくが君を殺す
君は、ぼくの同類な気がしたんだ。」
まっすぐ掌の大きな目玉を見て言う。
異形の新しいぼくの腕は、少し見つめ合ったあと、大きな目玉をあさっての方向にプイとそらして
「……いや、
……照れ隠しかな?
無言で隣で話を聞いていたメイカさんがジャッジする。
「本気のドン引きですね。ちなみに、ラティ様の死亡回数は10068回になります。痛覚そのまま、命を失う感覚も100%ダイレクトに感じる死亡を何故そんなに繰り返せるのか謎です。」
……かなしい。誰も理解者がいなかった。
「……勘違いだったのかなぁ。まぁどのみちスキルにしちゃったし。これから頼むよ」
「まぁ、あの何もない空間にいるよりはマシですかね。」
「よし、合意も取れたしよろしく!エル!」
仕方ないと言わんばかりに、掌の目は瞑られた。
こうして、ぼくの最初の『オリジンスキル』が出揃った。
_____________
「チュートリアルなのにかなり長居しちゃったかな?」
メイカさんはぼくの言葉に、しゃらりと鎖をならして、ポケットから懐中時計を取り出す。
パチンと蓋を開けて時間を見る。
「時間はかかりましたね…ですが、ご安心ください。サービス初日の本日はチュートリアルに関してはほぼ、時間無制限となっております。
創造主が『私の作った世界に挑むのに準備をちゃんとしてくれるのは、感心だからね。』と思考を加速し、体感時間の引き伸ばしを行っております。」
「ほぉほぉ?」
「具体的には最大、一時間を16日に引き伸ばす事が可能です。」
は?一時間を16日にする?
「ちなみに現在ラティ様はログインしてからこちらの空間で40時間以上戦っておりました。
実質2日こちらにいらっしゃってますが、延長された時間の中なので、まだ深夜0時も回っておりません。」
「…え?気付かなかった…」
「延々と殺し合っても、身体疲労はデスポーンの影響で感じれません。
平均15秒に一回のペースで死んでました。時間の感覚も壊れるでしょうね。
死亡回数10068回ですもの、それくらいはいきます。」
「左腕が
「さて、ラティ様ともそろそろお別れのお時間です。スキルが完成して、訓練も終了した以上は名残惜しいですが送り出さねばいけません。」
メイカさんがヒールでコツコツと地面を蹴ると床からジャキンと硬質な音を立ててドアが生える。
緑のプラスチック系の素材で人が逃げるようなマーク。その隣には『EXIT』の白い文字。金属の冷たい質感がする銀色のノブと 錆びの匂い。
「このドアが『始まりのドア』チュートリアル空間からEARTHへの出口です。」
朗々とメイカさんが
このドアを過ぐれば灰の都あり、
ドアを過ぐれば夢現の別離あり、
ドアを過ぐれば虚構の民あり
人の人足るは尊き造り主を動かし、
混沌なる意思、理性なき智慧、
生命への渇望、ドアを造れり
最終確認、決意の証明、
しかしてドアはあまねく人の前に立つ、
人よ、ここに入るもの己の欲望を持て
詠い上げた メイカさんが息をつく
「ふぅ、創造主から全てのプレイヤーへチュートリアル終了時に送るメッセージです。色々伝えてますけど、最後が特に重要だそうです。」
「『この私が創った世界なんだから、各人が楽しいと思える事を全力でして欲しい。中途半端に、だらだらとログインするんならソシャゲでもやってろ』それを伝えてプレイヤーの意思を問うドアです。
ラティ様はどうされますか?」
スッとメイカさんの横を通り過ぎ、
ヒンヤリとしたノブに手をかける。
「決まってます。思い切り暴れる為にぼくはドアをくぐります。」
「短い間…いや、2日は長いですね。長い間お世話になりました。ありがとうございます。」
振り返り、伝えると
メイカさんが微笑みながら手を振ってくれた。
「素晴らしい回答です。どうぞ暴れて下さいませ。こちらこそ他の
お互いににこりと笑って。
がちゃりと回す。
「いってきます。」
「いってらっしゃいませ。」
歩みを進め
ゴンッ
いい感じで出てくところを異形で普通の人より大きな『左腕』が突っ掛かり出れなかった。
いい感じを察して静かにしてくれてた『左腕』が申し訳なさそうにしてる。
…なんか、ごめんな
「…ブフッ」
メイカさんが微笑みとかでなく吹き出すのは多分レアなんだと思う。
「…普通のどこにでもあるサイズのドアですものね、うん。イレギュラーサイズの腕のついた人は想定外だよね。」
ちょっとの恥ずかしさと珍しいものを見れた優越感と共に出ていこう。
「ちょっと不格好ですが、いってきます。」
「い、いってらっしゃい」
まだ、ちょっと笑いに震えてるメイカさんを尻目に光溢れるドアをくぐった。
今度は気を付けてくぐったから、大丈夫。
さて、どんな景色が待ってるだろうか。
光に包まれ、一瞬世界が暗転した。
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